バイデン政権の本質は「切り分けのアプローチ」
人権や安保などアメリカの国益に反する局面では中国・ロシアには強硬かつ敵対的に対処し、気候変動など共通の課題では協力するというわけです。ただし、これを「表では殴り合って裏でニコニコ握手する」二面性のある態度だと単純に受け取るのは間違いです。「切り分けのアプローチ」と私は呼んでいますが、協力できるところは協力するという体系的かつ現実的な2本立ての外交戦略が、バイデン政権の対中政策の本質なのです。
香港の「一国二制度」は完全に踏みにじられた
そこで今後、大きな焦点となってくるのは香港の問題でしょう。米国務省の報道官は30日、中国政府が香港の選挙制度変更を最終決定したのを受け、「香港市民による政治参加と議員選出の余地を一段と狭める動きだ」として強く非難し、香港の立法会(議会)選挙の再延期に深い懸念を表明しました。
その選挙制度の変更とは、香港の立法会選挙に立候補しようとする人物が、北京政府によって国家に忠誠を尽くしていない、と判断されれば立候補が許されず、またそれに対する異議申し立ても一切認めないとする規定のことです。さらに立法会の定数も70から90に増やされ、同時に直接選挙枠が現行の35から20議席に減らされることになりました。これで、昨年施行された「香港国家安全維持法」と相まって、1997年の香港返還の際の国際公約でもあった、返還後も香港の民主主義を維持するといういわゆる「一国二制度」は完全に踏みにじられたことになりました。
これに加えて、新疆ウイグル自治区での人権侵害も世界的な大問題となっています。
こうした経緯を見ても、人権と民主主義を掲げるバイデン政権のアメリカが、中国に強硬な政策に打って出ているのはいわば当然のことでもありましょう。
10年前とはまるで変容した中国への「世界の見方」
私はそもそも昨年の大統領選挙の前から、共和党のトランプ、民主党のバイデン、どちらの候補が当選しても、アメリカの対中政策はもうすでに歴史的に転換しているので、基本的に変わらないと指摘していました。なぜなら、現在の中国は、10年前の中国とはまるで変容してしまったからです。
尖閣諸島に対する中国公船による侵犯行動を見ていても明らかなように、習近平指導部の非常に強硬な対外姿勢や、ウイグルや香港における人権弾圧、さらに昨年、新型コロナウイルス発生当初に情報を隠蔽してパンデミックを引き起こした責任。こうした点を見て、この1年余りの間で、中国の振る舞いに対する見方を変え、中国に対する国際世論は大きく変わりました。「中国は経済的に豊かになれば徐々に民主主義へ移行するだろう」という予測は、実現しないことを世界が悟ったのです。
例えば、これまで親中的だったヨーロッパ諸国、とりわけ経済的に強く中国に肩入れしていたドイツでさえも、この1年の間に中国の脅威をグローバルなものと捉え、NATO同盟も今後、中国に対しては冷戦時代のソビエトのように対処しなければいけないという認識に変わりました。