「ニクソンからオバマまで伝統的に寛容だった対中政策を、トランプ大統領がいわば木っ端みじんに破壊しました。バイデン大統領はこのトランプ政権による『破壊』のあとの『建設』の役割を担い、新しい対中戦略を編み上げる作業を目下推進してるわけです」
バイデン政権の対中政策についてこう分析するのは国際政治が専門で京都大学名誉教授の中西輝政氏だ。米国は中国の「人権問題」に対して一歩も引かない姿勢を示しているが、そんな中、4月16日には米国ワシントンで日米首脳会談が行われる。日本は今後どのように進むべきなのか。
(全2回の2回目/前編を読む)
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「対中政策」日韓の戦略的な立ち位置の違い
3月16日にブリンケン国務長官とオースティン国防長官が来日して、茂木敏充外務大臣、岸信夫防衛大臣と「日米安全保障協議委員会(2+2)」を行ないました。会議後の共同声明文がかなり踏み込んだ内容だったので、正直、私はかなり驚きました。
「中国による、既存の国際秩序と合致しない行動は、日米同盟及び国際社会に対する政治的、経済的、軍事的及び技術的な課題を提起している」
と、出だしからかつてなく厳しく中国を批判していたからです。対照的に、2日後に行なわれた「米韓2+2」が、韓国側の要請で中国を名指しするのを避けたのとは明確に一線を画していました。おそらく中国は今後その隙間を突いてくると思いますが、日韓の戦略的な立ち位置の違いが国際社会に示されたわけです。
さらに日米の共同声明は尖閣諸島に関して、対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条が適用されると再確認しました。2月に、“管轄海域”での武器使用を謳った中国の「海警法」が施行されてから、軍艦並みの武装をした中国・海警局の大型巡視船が、尖閣周辺に連日現れています。ひところ日本の中国ウォッチャーの中には、「あれは北京の意向を無視して、現場が勝手に動いているんだ」という解釈がありましたが、今回、明らかになったことは、そうした見方は間違いだったわけで、習近平指導部の描く大きな方向性が、尖閣での動きに忠実に反映されていると見るべきです。
武器使用を含む全ての措置をとる「海警法」
北朝鮮がミサイルを発射したり、ロシアが北方領土で軍事的なデモンストレーションを行なうのと同じで、何かを話し合いたいときに強硬な態度を見せて対話の糸口を探ろうとするのは、全体主義国家の特徴的な交渉スタイルです。
ただし、「海警法」はその内容が大変危険だということはよく知っておく必要があるでしょう。海警法では中国が「管轄海域」と見なすところでは、他国の軍艦や巡視船などを強制的に排除したり、拿捕できるばかりか、武器使用を含む全ての措置を執るとしているからです。
ここには、尖閣周辺から日本の海上保安庁の巡視船を遠ざけ、実効支配を目指す狙いが明らかに見て取れます。既成事実として尖閣の実効支配を日本政府が失ってしまうと、日米安保・第5条は適用されなくなるからです。ですから日本は何があっても実効支配を放棄しないという、きわめて明瞭かつ堅固な姿勢を、保たなければなりません。