「新疆ウイグル自治区、香港、台湾、アメリカへのサイバー攻撃、同盟国への経済的威圧など、中国の行動に強い懸念を抱いている」

 3月18日に米アラスカ州アンカレジで開かれたバイデン政権下初の米中対話。冒頭発言でアメリカ側のブリンケン国務長官がこう中国の姿勢を非難した。

 今年1月のバイデン政権発足直後は「中国に対し、融和的な政策を取るのではないか」と指摘されてきたが、今回の外相会談に象徴されるように、米国の態度は変わったように見える。米中の新たな対立は「米中新冷戦」の始まりと指摘されるほどだ。今後の米中の覇権争いはどう展開していくのか。国際政治が専門で京都大学名誉教授の中西輝政氏に聞いた。(全2回の1回目/後編を読む)

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中国を「唯一の競争相手」と名指しで批判

 バイデン新政権の対中政策は、予想以上に強硬な姿勢を示してスタートを切りました。「自身が副大統領を務めたオバマ時代のような関与政策に戻って、中国を甘やかすのではないか」という見方はこれまでのところ覆されています。

バイデン大統領 ©️時事通信社

 理由の第1は、議会を中心とした米国国内の世論が中国に大変批判的になっている現状を意識していること。

 第2は、国内の政治基盤、主としてバイデン大統領から距離を置こうとする民主党内の左派勢力に、人権重視で中国に迫る姿勢を見せるためです。

 国外に向けては、人権問題に考慮を払わなかったトランプ政権との違いを示すと同時に、世界におけるアメリカのリーダーシップを確保しようとする狙いがあります。人権と民主主義の推進という価値観の問題で先頭に立つ姿を世界に示すことで、トランプ時代に評価を落としてしまった大国としての地位を回復させる目的です。

 バイデン大統領としては、対中融和に転じるのではないかという前評判を打ち消し、トランプ政権の対中強硬路線を受け継ぐ姿勢を内外にはっきり示す必要がありました。

 その点で、この3月、アメリカの対中外交はまず非常に活発にジャブを繰り出すと同時に、用意周到でした。同月3日に、国家安全保障戦略の暫定的なガイドラインを打ち出し、中国を「安定した開放的な既存の国際秩序に絶えず挑戦する、唯一の競争相手」と名指しで批判しました。