そういう国際世論の大きな流れも加味しながら、今後バイデン政権の対中政策がさらに緊密な同盟国との協力の上に組み上げられていくことは間違いありません。オバマ時代のような「世界の警察官にはならない」という姿勢に戻ってしまえば、中国のさらなる増長を招き、世界がアメリカについて来なくなることを、バイデン大統領は十分に自覚しています。
共産党指導部から「習近平では経済がダメになる」
過去12年のアメリカ外交を振り返ると、オバマ大統領は弱々しいアメリカファースト主義だったといえます。他方、「対中強硬」を掲げつつも、極端なアメリカ第一主義で同盟国との協力に後ろ向きだったトランプ政権は、アメリカは世界から手を引いていくべき、と考える孤立主義という点でオバマ政権と共通していたのです。
とはいえ、他の政策領域では「アラ」が目立ったトランプ政権でしたが、対中政策を、ニクソン以来の中国に甘い関与政策から一転させ、強硬に対処する必要をアメリカ世論に受け入れさせた功績は大きかったと思います。
2018年10月、トランプ政権のペンス副大統領が、非常に強硬な反中国演説を行ないました。まず通商問題、軍事、外交などで中国に対抗する方針を明らかにした。そして経済や科学技術など、中国が国際社会の大半を引っ張っていくだけの力がまだ及ばない領域、言い換えれば依然としてアメリカが世界の主人公として力を維持している領域で効果的に中国を締め上げれば、習近平体制は揺らいでくると述べたのです。
つまり、経済や貿易が停滞したり、半導体などの調達が難しくなったり、ファーウェイなどの先端企業が世界市場から切り離されていけば、中国共産党の指導部や有力な支持基盤から「アメリカとこんなに対立したら、やっていけないんじゃないか」とか「習近平では経済も駄目になる」という声が出て、体制が揺らぎ始めるのではないか。そんな見通しがペンス演説以降、アメリカの対中政策に一貫してあるように思います。
バイデン大統領が担った「破壊」のあとの「建設」
こうして、対中政策という点では、バイデン政権はある意味、トランプ政権の遺産の上に立っているといえるでしょう。中国に対する強硬さを受け継いで国内の支持を確保していることは、トランプ政権が課した制裁関税を撤廃しないことでもわかります。共和党の自由貿易主義をトランプ前大統領が捻じ曲げ、国内の雇用を守るために保護貿易主義をとる民主党のバイデン政権が、それを受け継ぐ形でラストベルト地帯などでの政治的な支持基盤の強化に利用しているわけです。
ニクソンからオバマまで伝統的に寛容だった対中政策を、トランプ大統領がいわば木っ端みじんに破壊しました。バイデン大統領はこのトランプ政権による「破壊」のあとの「建設」の役割を担い、新しい対中戦略を編み上げる作業を目下推進しているわけです。
(#2へつづく)
その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。