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2021/04/17

「小学校で日本の学校に入ったんですけど、そこでは何というか…すごく『閉鎖的だな』と感じて。みんな肌の色が違う、家で話す言葉も違う、食事も文化も違うという環境の幼稚園に通っていて、多様な文化があることを知っている自分がいるなかで、いわゆる普通の小学校での閉鎖性に直面した時は、結構、衝撃を受けました」

 異文化が当たり前で、自身の世界を広げてくれたインターナショナルスクールとは環境がまるで違う。同じアジア人のはずなのに、それでも日本人と韓国人として壁を作られる。

「周りと自分はちょっとルーツが違うんだな…」

 嫌でもそんなことを意識させられた。

 そのカルチャーショックは幼い日の李にとって、大きなものだった。

 

積極的に発信するダブルルーツの選手たち

「姉妹は幼稚園のあともインターナショナルスクールに通っていたので、それと比べた時によりショックも大きくて。ただ、そこで自分のアイデンティティというものを自覚するきっかけになりました」

 こういった厳しい経験や、前述の国籍変更という大きな出来事に対する葛藤を通して、李は自身のルーツの在り方について考え続けてきた。だからこそ、文化の違う異国に飛び込んでなお、自分の殻に閉じこもることなくアクションを起こし、高い評価を受けることができているのだろう。

 近年、スポーツ選手だけでなく個々人のアイデンティティの問題はたびたび俎上に上がる。テニスの大坂なおみ選手や、バスケットボールの八村塁選手のようなダブルルーツの選手たちも、それぞれのルーツに根差した発信を積極的に見せている。そして彼らは、その多様性を原動力に、前人未到の場所へとたどり着いている。彼らと同様、きっと李自身もそんな風に多くの人々に希望を与える存在となっていくはずだ。

「アジア人を代表して挑戦している」という自覚

 1月末に渡米してから、挑戦もすでに3カ月目に突入した。

 今月初旬にはNFLのドラフト有力候補たちとともに「プロデイ」と呼ばれる合同セレクションにも参加し、まずまずの結果を残している。11名のIPP候補選手の中からチームとの契約に進めるのは4名だけという狭き門だが、李の歩みはここまでは順調だ。

 

「このプログラムの期間中にもSNSなどで、日本だけでなく韓国、中国など多くのアジアをルーツとする人から『勇気をもらった』という応援のメッセージを貰いました。最初は“日本の”フットボールを代表してという気持ちでしたが、NFLという舞台に『アジア人を代表して挑戦しているんだ』という自覚も芽生えました。これまではあまり意識したことがなかったけれど、自分がそういう立ち位置にいることを理解して突き進んでいきたいです」

 韓国と日本という「祖国」と「母国」を持つ李が目指す“日本人初のNFL選手”という夢――。

 これまで日本の歴史で誰も破れなかった壁を壊すのは、そんな多彩なバックボーンをもった男なのかもしれない。

 運命の結果は、5月初旬に発表になるという。

李卓/り たく 1995年2月20日、愛知県生まれ。南山中・高時代にアメリカンフットボールをはじめる。大学は慶應義塾大学に進学し、RBひと筋でプレー。大学3年時に日本代表として世界選手権アメリカ大会に出場。大学3年、4年時は連続で関東リーディングラッシャーにも輝いた。卒業後は日本航空にパイロット訓練生として入社し、社会人リーグの強豪・オービックシーガルズにも加入。ルーキーイヤーから活躍し、最優秀新人賞も受賞。2018年秋、日本航空を退社してNFLへの挑戦を決意し、昨年末よりNFLのIPPプログラムに参加中。

 

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