先日、プロゴルフの松山英樹選手が日本人男子で初めて海外メジャーを制した。
近年はゴルフだけでなく、スポーツの分野で日本人選手の世界を舞台にした活躍が目覚ましい。これまで「日本人には不可能」と言われ続けてきた世界への扉を、多くの選手がこじ開けはじめている。
一方、そんななか北米4大スポーツで唯一、アメリカンフットボールのNFLだけは、いまだ日本人には未踏のリーグとなっている。
だが、ついにそんな最高峰の頂に手をかけつつある選手がいる。26歳の李卓だ。
李はいま、インターナショナル・プレーヤー・パスウェー(IPP)と呼ばれるプログラムへの参加を目指し、9カ国11人の中で競いあっている。IPPは北米以外の国の有望な選手にも、NFL選手として契約のチャンスを与えるために2017年に開始されたプログラムだ。数カ月にわたる選考を通して実力を認められれば、実際にNFLチームへの帯同契約を結ぶことができる。
現在、李は選考の中でトップクラスの評価を得ているという。チームへの帯同契約を手にする可能性も十分にある。では、李はいかにしてここまでたどり着いたのだろうか?
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順風満帆なアメフト生活でぶつかった「壁」
いまから7年前のこと。19歳だった李卓は、悩んでいた。
幼少期から水泳、剣道、テニス、サッカー、野球とさまざまなスポーツに触れ、持ち前の運動能力と向上心で活躍してきた。中でも、愛知・南山中時代にはじめたアメリカンフットボールは性に合った。
「勧誘で連れていかれたらNFLの映像が流れていて。それがすごくカッコよかったんです。感激して翌日体験入部に行ったら、たまたま上手く走れてタッチダウンできたんですよね。そしたら監督に『お前はガッツがあるからいい選手になるぞ!』と言われて。今思えば勧誘のための甘い言葉なんですけど(笑)」
そうして競技にのめりこんだ李は、どんどん力をつけていった。ポジションはランニングバック一筋。チームのオフェンスの核として、走りまくった。高校進学後には、2年生の夏に選抜チームに選ばれ、アメリカ遠征も経験した。3年時には全米の高校生が集い、強豪大学のスカウトも注目するテキサス州での合同練習にも、日本からただ1人加わることができた。
大学は強豪校のひとつでもある慶大に進学し、そこでも力をつけた李は、2年生になった2014年には、U-19日本代表への選出を打診される。
「自分の能力に高い評価をもらえたのは、素直に嬉しかったですね」
そう李自身が振り返るように、まさに順風満帆なアメフト生活だった。
ただ、代表入りのためにはクリアしなければならない大きな課題があった。在日韓国人4世として生まれた李の国籍は韓国。そのため、代表入りするには国籍変更が必要だったのだ。