本人は嫌がるだろうが、少なくとも外野からステレオタイプなレッテルを張り付ければ、杉浦慧は生粋の“お坊ちゃん”だ。
小学校から高校までを成蹊学園で学び、慶應大の法学部に入学。高校時代はイギリス・ケンブリッジ大への短期留学も経験し、ゴルフやテニスといったちょっと高尚なスポーツにも親しんできた。
初めて挑んだ箱根駅伝は5区の「山上り」
そんな“スマート”な彼が、何の因果か天下の険・箱根の山に挑むことになったのが2021年1月2日のこと。舞台は、あの箱根駅伝。関東学生連合チームの主将として、山上りの5区を走ることになったのだ。
「とにかくキツかった…という感想です。最初の3kmはまだ本格的な登りが始まらないので、そこでリズムを作って山に入っていくはずだったんですけど、箱根当日は風が強くて上手くできなくて。足というか、体の中がバキバキになる感じでした。走り終わった後は『アバラ、折れてるのかな?』っていうくらい脇腹が痛かったです」
チーム内の有力選手の故障で区間配置が予定通りに進まなかったアクシデントもあり、初めて走る山上りは実力を100%出せたとは言い難くほろ苦い経験になった。ただそれでも、芦ノ湖の往路ゴールへ学連チームのタスキを運び、そこに足跡を残すことはできた。
高校の実績は全出走選手の中で“下から2番目”
実は、杉浦の周囲にとってはそれだけでも大きな驚きだった。
高校生長距離ランナーの目安となる5000mのタイムを見ると、杉浦の高校時代のベスト記録は15分26秒。今回箱根を走った210人の中では、下から2番目だ。高校時代から13分台で走る選手が珍しくない昨今、強豪校では部への入部すら不可能なレベルである。競技の面から見れば、そのキャリアとは異なる「雑草魂」を見せたことになる。
高校時代に全国クラスの実績を持つランナーでも、箱根という檜舞台を走れずに終わる選手は数多い。そんな中で杉浦はなぜ、チームの主要区間を任されるほどの成長を見せられたのだろうか?