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「効率的なトレーニング」だけで戦えるのか? 

 実際に大学に入学してみると、待っていたのは思った以上に厳しい現実だったという。

「高校時代にタイムを持っていないことはわかっていましたけど、中距離メインでしたし『伸びしろはあるだろうな』というのは自分でも感じていました。もともと自分一人でメニューを組んで、足りない部分をどう補うかなど、頭を使って効率的なトレーニングをしていた自負はあったんです。いわゆる駅伝強豪校ではない慶大のカラーにもそれは合うと思っていましたし、そのやり方で伸びるだろうと思っていました」

 最初がBチームからのスタートだったのは本人も「覚悟していた」という。だが、これまで朝練もほとんどしたことがない体では、当時の、決してタフとは言い難い慶大のトレーニングについていくことすら難しかった。

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 練習についていくために走り込もうにも、それまで杉浦は月に200km程度しか走ったことがない。大学ではゆうにその3倍以上の距離を走ることもある。とても練習を継続することができない。入学後にはすぐに故障し、最初の1か月は全く走ることができなかったという。

「入学してとにかく感じたのが、“スマートに”とか“効率よく”だけでは絶対に戦えないということでした。20km以上のロードを走る箱根駅伝は、ある程度『パワープレー』が必要。むしろ『練習量を増やすためにどうするか』に対して努力をしないといけないと思ったんです」

杉浦に必要だった「泥臭さ」

 具体的にやったことといえば、実にシンプルで泥臭い。要は、とにかく陸上競技にしっかりと時間をかけることだ。

 練習前は誰より早くグラウンドに出て、ストレッチをする。練習後も、自分ひとりになるまで、クールダウンや体のケアも含めてサボらない――。派手でハイレベルなスピード練習とは違う。他校のような海外での高地合宿があるわけでもない。とにかく日々の、地味な作業の積み重ねが、少しずつ杉浦を成長させていった。その愚直さは、慶大らしい“スマートさ”とは対極に位置するものでもあった。

 

 1年目の秋の予選会のハーフマラソンを65分台で完走。「学生連合チームに入るまであと18秒」というところまでたどり着くと、箱根路は現実的な目標になった。2年目の予選会は暑さもあり不完全燃焼だったが、昨年10月に挑んだ3度目の予選会ではその記録をさらに更新し、62分台の好タイムもマーク。箱根常連校のエース格の選手たちとも堂々と渡り合い、無事に5番手の記録で学生連合チーム入りを決めた。

「1、2年生のうちはそれでも3か月に一度くらいのペースで本練習から離脱してしまっていたのが、今季は1年間継続してトレーニングができた。それが、記録が一気に伸びた一番の理由だと思います。言い方はよくないですが、コロナ禍の中で授業の時間も減り、陸上競技に充てられる時間も増えて、単純に距離がしっかり走れましたから」