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監督人生初のタイプ

西川 本木さんは観察眼が鋭いので、些細なことも徒や疎かにできない緊張感がありますけれど、お仕事するのは面白いですよ。面倒くさい俳優という点では日本一ですが(笑)。

内田 監督人生初のタイプですか。

西川 前代未聞です。確かに細かい。手がかかる。だけど笑っちゃうんですよ。どこか愛らしさがあって、誰も嫌いになれない。お見事ですよね。

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内田 いや皆さん、本当のことを言わないだけかもしれない。

西川 そんなことないですよ。本木さんは年齢を重ねられてあの境地に至ったのか、若い時から資質があったのかわかりませんが、皆さん、あのパーソナリティに搦(から)めとられていくというか、虜になっちゃう。

内田 それを狙っているのかな?

西川 いやいや。ご本人はあれでも周囲に面倒かけたくないと考えているようで、いつもがっくり反省しながら帰って行かれますから。

裕也と同じ種類の主人公

内田 西川さんの最新作『すばらしき世界』を拝見しました。こんなすばらしい作品を作ってくださってありがとうございますと、お礼を言いたい。観客は自分の人生とまざまざと照らし合わせて作品を鑑賞すると思います。

『すばらしき世界』 ©佐木隆三2021「すばらしき世界」製作委員会

 実は、今日(3月17日)は、父、裕也の命日です。早いもので三回忌になるのですが、私が生まれた頃から父はずっと不在で、私たちの生活に足を踏み入れないまま逝ってしまいました。生涯で顔を合わせた時間は、たぶん数10時間です。それでも父は私の人生にものすごいインパクトを残している。それは一体何なのか。映画の主人公の「三上」も破天荒な生活だったけど、誰よりも力強く生き抜くインパクトは、父と同じ種類のものだなと思いました。

 父は病院で早朝に一人で息を引き取った。その前夜、ニューヨークの大学に通う孫娘の伽羅が帰国し、成田から病院に直行していました。彼女が「来たよ」と言うと一瞬目を覚まして、「うんうん」とうなずくうちにスーッと眠ったんですって。伽羅は起こさないように、そーっと病室を後にして、たぶん逝ったのはその数時間後のことです。あんなに人間が好きで、ケンカばかりしては他人を巻き込んで生きてきた裕也が、独りぼっちで最期を迎える姿が三上と重なるんですよ。

 お二人の対談の続きは、「文藝春秋」5月号と「文藝春秋 電子版」掲載の『【対談】内田也哉子×西川美和|すばらしき「家族の苦しみ」』でお読みいただけます。

文藝春秋

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