――結婚しないで終わるなと予感めいたものを感じたけど、どこかで結婚したいなという願望も生まれてきたのですか?
渡辺 寂しいわけではなかったし、真剣にしたかったわけでもないけど、「孫を抱いてみたいなぁ……」と呟く親に対してかわいそうだなという気持ちも少しはあったので。だから、1回くらい結婚を体験してみてもいいかなって。でも、そんなに深刻なもんじゃないです。
あと、両親も僕も、姉だけは結婚するものだと思っていたんです。 だから好き勝手に生きていたんですけど、ぜんぜん姉が結婚をする気配がなくて当てが外れてしまったなと。そういう面も含めて、親には負い目がありました。
――独身で50歳近くになると、急に虚しくなってきますよね。食べていける程度の仕事も雨風をしのげる住まいもあるけど、この先もこんな感じで生きていくのかという虚無感を抱くといいますか。
渡辺 それはありますね。40歳を過ぎると、だんだん死ぬ時までのプランができてくるじゃないですか。漫画家としても、40、50を過ぎると伸びしろみたいなものをそんなに感じなくなる。そうなると、あとはもうきれいに死ぬための準備に必要なお金を稼いでいくだけ。そういうことが、結婚への願望に直接結びつきはしなかったですが。
父親は「あんまり、いい結婚じゃないな……」
――“流れ”で結婚され、いきなり血の繋がらない子供がふたり。ご両親の反応はいかがでしたか?
渡辺 やっと結婚すると聞いたら「なんだ、それは?」みたいな。だいぶショックを受けたようで、父親は絞り出すようにして「あんまり、いい結婚じゃないな……」と言っていました。
まぁ、わからないでもないですけどね。どこかの知らない子のために遺産をあげなきゃいけないのかとか、その手続きとかするのかみたいな。えらく複雑な顔をしてましたけど、娘たちに会うとかわいがるんですよね。結局、後で奥さんと僕との間に男の子が生まれたのもあって納得できたようですけど。