2018年の調査で親の離婚を経験した子どもたちが1年間21万人以上にのぼることがわかった。この数字は高度経済成長期の頃と比べておよそ3倍。子どもの数が減っていることをあわせて考えると親の離婚を経験した子どもたちは決して珍しくなくなっていることがわかるだろう。そうした子どもたちの親が再婚するケースも少なくなく、親の再婚によって継親子関係が生まれた家族のことを「ステップファミリー」と呼ぶ。
ステップファミリーは家庭内でどのような難しさを経験しがちなのだろうか。「血縁がなくても愛情さえあれば実の親子のようになれるはず」と考え、「親に代わって、良い親にならなければいけない」と努力する継親の善意が子どもを苦しめてしまうこともあると語るのが家族社会学者の野沢慎司氏、菊地真理氏の両氏。ここでは「正しい親」幻想が招いた悲劇を受け止め、あらゆる親子が幸福に生きられる家族の形を考えた書籍『ステップファミリー 子どもから見た離婚・再婚』を引用し、具体的なステップファミリーの事例を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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継父は「スポンサー」
沙織さん(20代前半、女性)は、5歳で両親が離婚し、7歳のときに実母が再婚して継父との同居生活が始まりました。離婚後に遠方に引っ越した実父は、年に数回沙織さんに会いに来てくれていました。手紙やプレゼントも贈られてきて、安心していたと語ります。その交流は実母が再婚するまで2年あまりのあいだ続きます。しかし、再婚を機に、何の説明もないまま交流が途絶えてしまいます。
沙織さんにとって、実父は「よく遊んでくれる優しい、大好きな父」でした。その実父と前兆もなく急に別れることになりました。その理由が、実母が「再婚するからもう会わないでほしい」と実父に伝えていたためであったと後で知ります。
やっぱりその、大事な父だったので、はい。なので会いに来てくれたのはとても嬉しかったですし、それがその、またいきなりなくなったときは、やっぱり相当母に対して、こう、怒りを感じましたね。
「あの人がお父さんになるのよ、パパって呼びなさい」
実父との突然の別れという大きな喪失感を抱えているときに、再婚してまもない実母から継父を「パパ」と呼ぶように言われたというエピソードも語っていました。自分にとって大事な実父の存在を軽視して、継父を「父親」とみなすよう求める実母の態度に、怒りと不信感を抱えます。
「今度からあの人がお父さんになるのよ、パパって呼びなさい」って言われて、で、私はそのとき何も疑問に……、うーんと、私の中では、その、パパという人は本当の父ひとりだったので、えーと、その男性の名前にパパってつけて「何とかパパって呼べばいいの?」って何も疑問に思わないで言ったんです。パパは本当の父親ひとりで、別のパパっていう認識だったので。(中略)母親から「何でそんなこと言うの? パパでいいじゃない」ってものすごく怒られたんですね。
私は当たり前のように、本当の父とは別のところに新しい父(継父)を並べていたんですけど、こう、母の中ではまったくそうでないというか、多分そう、私がそう思っていると思いつきもしないんだろうということがわかったので。
沙織さんと継父との十数年にわたる関係のなかで、継父からは「父親」のようなふるまいもないので怒られたこともなく、反抗や衝突も起こらなかったと言います。沙織さんからも仲悪くする必要はないが仲良くしたいとも思わないというように、双方のあいだでほとんど情緒的交流がなく、一定の距離感を保ったままの関係であったことがわかります。