工業都市・川崎。2015年2月20日、川崎区の多摩川河川敷で、当時17歳~18歳だった3人の少年が、中学1年の少年Xをカッターナイフで43回切りつけて殺害するという事件が起きた。過酷な住環境の中をヤクザが闊歩し、貧困が連鎖するこの街では、陰惨な中1殺害事件のほかにも、ドヤ街での火災、ヘイト・デモといった暗い事件が続く。その一方で、この街からは熱狂を呼ぶスターも巣立っている。

 ここは地獄か、夢の叶う街か――。負の連鎖を断ち切ろうとする人々の声に耳を傾け、日本の未来の縮図とも言える都市の姿を活写して話題の『ルポ川崎』(磯部涼著)から、第1話「ディストピア・川崎サウスサイド」を紹介する(全2回の1回目/後編を読む)

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全身に痣や切り傷を負った少年の遺体

 平和な光景だった。よく晴れた日曜の午後、なんの変哲もない川沿いの土手を、ぽつりぽつりと人が通り過ぎていく。ベビーカーを押す若い夫婦、雑種犬を連れた老人、トレーニングウェアを着たジョガー。下方の河川敷では中年の女性が野草を摘み、親子が釣りをしている。水面に目をやれば、やはり魚を狙っているのだろう小鳥が空中から勢いよく下降し、かすかな飛沫を上げて飛び去った。そう、実に平和な光景だった。しかし、ほんの数カ月前、まさにこの場所で、世間を騒がせる陰惨な事件が起こったのだ。

 2015年2月20日、午前6時頃。神奈川県川崎市川崎区港町で、多摩川沿いの土手を散歩中の地元住民が、河川敷に全裸で転がっている遺体を発見した。被害者は中学1年生の少年X。全身に痣や切り傷といった暴行の跡が見られ、特に首の後ろから横にかけては頭部の切断を試みたのではないかと思えるほど、深く傷つけられていた。死因は頸動脈の損傷による出血性ショック。遺体は血だまりや凶器と見られる工業用カッターナイフの刃が落ちていたところから、数十メートル離れた場所にあり、被害者は暴行を受けた後、助けを求めるため這って移動し、途中で事切れたようだった。