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「これまではヤクザになるか、捕まるかしかなかった」川崎から巣立った人気ラッパーが明かした「中1男子殺害事件」

『ルポ川崎』#2

2021/05/01

genre : ニュース, 社会

 工業都市・川崎。2015年2月20日、川崎区の多摩川河川敷で、当時17歳~18歳だった3人の少年が、中学1年の少年Xをカッターナイフで43回切りつけて殺害するという事件が起きた。過酷な住環境の中をヤクザが闊歩し、貧困が連鎖するこの街では、陰惨な中1殺害事件のほかにも、ドヤ街での火災、ヘイト・デモといった暗い事件が続く。その一方で、この街からは熱狂を呼ぶスターも巣立っている。

 ここは地獄か、夢の叶う街か――。負の連鎖を断ち切ろうとする人々の声に耳を傾け、日本の未来の縮図とも言える都市の姿を活写して話題の『ルポ川崎』(磯部涼著)から、第1話「ディストピア・川崎サウスサイド」を紹介する(全2回の2回目/前編を読む)

川崎区の工場 ©細倉真弓

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“ディズマランド”のような川崎区

 それにしても、地元の不良たちに話を聞いていると、川崎――というか南部に位置する“川崎区”が、まるで、覆面アーティストのバンクシーがつくった“ディズマランド”のように思えてくるというものだ。朽ち果てたシンデレラ城や、横転したカボチャの馬車が並び、壁に「Life isn't always a fairytale(人生はおとぎ話ではない)」と書かれた、ディストピア版ディズニーランド=“Dismal【陰気な】+Land【土地】”は、しかし、現実を反映したものだと評価されている。

 もしくは、メディアがいうところの“川崎国”もまた、日本が抱える問題を凝縮した姿であり、日本の未来の姿であるといえるのかもしれない。同区は外国人住民が多いことでも知られるが、中1殺害事件では主犯格の少年がフィリピン系日本人だったことから、ネットにおいてレイシズムの餌食になってしまった。簡易宿泊所火災事件では、ほとんどの宿泊者が生活保護を受給する老人だったことや、彼らが避難後も簡易宿泊所に戻りたいと希望したことが驚きをもって報じられた。

©iStock.com

 そして、そんな地元について話す若者たちは、どこか高揚しているようにさえ思えた。酔客でごった返す駅前の繁華街。「食事をおごるから中1殺害事件について聞かせてほしい」と、あるカップルに声をかけると、彼らはしゃぶしゃぶをリクエストし、片割れの女性は皿に綺麗に並べられた肉を箸でぐちゃぐちゃとかき寄せながら笑った。

「事件の直後はオジさんみたいな人がいっぱいいたから、美味しいものたくさん食べられたよ。でも、なんで今さら、取材してるの?」