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「これまではヤクザになるか、捕まるかしかなかった」川崎から巣立った人気ラッパーが明かした「中1男子殺害事件」

「これまではヤクザになるか、捕まるかしかなかった」川崎から巣立った人気ラッパーが明かした「中1男子殺害事件」

『ルポ川崎』#2

2021/05/01

genre : ニュース, 社会

note

にじみ出る不良っぽさと、背景となる過酷な生い立ち

「巷を騒がせている凄惨な事件は、確かに地元・川崎で起きたことです。BAD HOPとはまったくの無関係ですが、新しい『Stay』という曲でも、自分たちがまだ川崎の最悪な環境のどん底にいたときのことを歌いました。そんな場所で、今はヒップホップに可能性を見いだして活動しています」

 川崎区で1995年に生まれたラッパーを中心に構成されているグループ=BAD HOPは、中1殺害事件についての噂が飛び交う真っ直中の2015年3月5日、ツイッター・アカウントにそんな文章を投稿した。当時、インターネットでは、逮捕された3人の背後に黒幕がいるのではないかと面白半分で探る者たちによって、地元が同じだというだけで無関係な若者たちのプライバシーが晒されていた。だからこそ、川崎では名の通った不良だったBAD HOPは、事件とのつながりを否定したわけだが、すでに彼らはそのような地元のしがらみを抜け、上の段階へ進もうとしていた。

BAD-HOPの面々。前列左からG-K.I.D、Vingo、AKDOW、Bark、後列左からBen-Jazzy、Tiji-Jojo、YZERR、Yellow-Pato、DJ-KENTA、T-Pablow ©細倉真弓

 BAD HOPは、2WINことT-PablowとYZERRという双子の兄弟をリーダーとして、Tiji Jojo、Benjazzy、Yellow Pato、Bark、G-K.I.D、Vingo、AKDOW、DJ KENTAというメンバーから成っている(15年当時)。その名前が知られるようになったきっかけはテレビ番組の企画で、10代のラッパーたちがフリースタイル・バトルを繰り広げる「高校生RAP選手権」にて、T-Pablowが第1回大会(12年7月放送)と第4回大会(13年10月放送)の、YZERRが第5回大会(14年4月放送)の優勝を獲得したこと。また、彼らの人気の要因は、ルックスの良さとラップの上手さもさることながら、にじみ出る不良っぽさと、背景となる過酷な生い立ちにあるといっていいだろう。そういったキャラクターにこそ、若者がリアリティを感じる時代なのだ。大人たちはまだ知らないかもしれないが、2人は少年少女の世界ではすでにセレブリティである。

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2WINが川崎を変えた

 この夏、T-PablowとYZERRが地元の祭りに顔を出すと、歓声が上がり、一斉にiPhoneが向けられた。握手を求めて近づいてくる中には、中1殺害事件の被害者と同じ年の男子もいて、彼は2WINにあこがれてラップを始めたと話したという。インターネットのニュースで、件の被害者を同級生たちがフリースタイルで追悼する映像が出回ったが、もはや、川崎の子どもたちの間ではラップをすることは自然なこととなっている。そして、その流れをつくったのは、ほかでもない2WINである。

 Barkは言う。

「オレの弟も中学生なんですけど、ラップをやってるヤツは多いみたい。目標は、やっぱり、『高校生RAP選手権』。2WINが川崎を変えたんですよね。昔は、夜、家をこっそり抜け出して悪さをしてたけど、今は公園に集まってフリースタイルやるっていう」