2018年、TBSがラジオの野球中継から撤退。JRN系列キー局の撤退は、NRN系列も含め野球中継をするラジオ局全体の再編を余儀なくした。

 時を同じくして、文化放送はそれまで続けてきた実況・解説を現地に送り込んでの自社制作からスタイルを変え、一部他局の中継をネットするようになった。

 2021年現在、文化放送が制作するのは関東の試合のみで、札幌の試合はHBC北海道放送、仙台はtbc東北放送、福岡はRKB毎日放送の中継を受けるかたちで放送し、大阪の試合はABC朝日放送やMBS毎日放送に制作を委託している。

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 それまでライオンズナイターはライオンズ応援中継を声高に謳い、「ライオンズびいき」に放送してきた。しかし、他局の中継をそのままオンエアするとなると、そうもいかない。先のコラムで「野球中継、特にラジオの場合、肝となるのは何と言っても実況だ」などと書いておきながら、その肝心の実況でライオンズ応援色を出すのが難しくなったのだ。応援中継のピンチである。

 しかし、ライオンズナイターを聴いていただければ、他局の中継をネットするだけでないことはお分かりいただけるだろう。他局のアナウンサーが実況しても「ライオンズびいき」の放送になるような工夫があるからだ。

 例えば、ジングルに選手の声を使ったり、リスナーからの応援メッセージをイニング間に紹介したり。4月23日には球団歌「地平を駈ける獅子を見た」を歌う松崎しげるさんをスタジオに呼び、得点が入るたびに実況に上乗せして生で歌ってもらったりもした。球場から「ライオンズびいき」ができないなら、スタジオで「ライオンズびいき」をしようというのである。

 その点、何と言っても急先鋒に立つのはスタジオアナウンサーだ。実況や解説者のいる球場ではなく、中継の枠付けをするアナウンサーは浜松町のスタジオにいるのでそのまま「スタジオアナ」と呼ばれているが、今回は、ライオンズナイター応援中継存続のピンチを救ったこのスタジオアナにスポットライトを当てて紹介したい。

「額縁」が色をつけ、ラジオ中継は作品に

 スタジオアナの出演パートは試合前、試合中、試合後と大きく3つに分けられる。

 簡単に紹介すると、試合前は17時55分の番組放送開始からプレーボールまでの時間にスタメンを紹介し、試合の聴きどころを伝える。

 試合中は主にイニング間に、ニュースを読んだり、交通情報を伝えてくれる警視庁に呼びかけたり、リスナーからのメッセージを読んだり、速報が入ればそれを読んだりもする。局間ネットの場合はイニング間が60秒と決まっているので、1秒2秒を調整するコメントを厳選し、尺をあわせる作業も必要だ。もちろん試合を見ながら聴きながら、スコアを付けながら、である。

 そしてゲームセット後は、球場からの中継終了後、番組終了までの時間を埋める(この時間を「フィラー」と言う)。試合時間によって尺も内容も変わるフィラーの準備を、スタジオアナは試合中にする。

 もちろんプレーボール前の聴きどころや試合中のメッセージなど、ディレクターと方向性の確認はするが、あくまで言葉を紡ぐのはアナウンサー自身だ。

 このように、野球中継の実況でない部分=スタジオも、意外と忙しく、技のいる作業をしている。実況が伝えたものが「絵」なら、枠付けをするスタジオアナウンサーは「額縁」だ。絵のサイズやテイストに合わせ、相応しく存在する。何気なく、しかし相応しく存在するこの額縁も含めて、放送は一つの作品なのだ。

 前述した通り、今は絵が必ずしもライオンズ色をしているとは限らない。他局の中継をネットするときは特に、この額縁にこそライオンズ色が求められる。はっきり言うと、今「ライオンズびいき」できるのは実況よりもスタジオアナだ。かつての戸谷真人アナウンサーや中川充四郎さんの魂を引き継いでいけるのは、スタジオアナなのだ。