私には巨人戦を一緒に観戦する仲間が何人かいる。今回はその仲間の1人、清田さんの話をしようと思う。
清田さんは私より一回り年上の優しいおじさまだ。清田さんは長年の熱烈な巨人ファンだが、気の毒なことが1つあった。それは清田さんが現地観戦した試合は6年間全て巨人が負けていることだ。仲間内ではこのことを「清田の呪い」と呼んでいる。
昔から現地観戦をすると巨人が負けることが多かったようで、2012年巨人が2位中日に10.5ゲーム差をつけ、ぶっちぎりで優勝したシーズンでも清田さんは10試合観戦して2勝8敗だったという。観に行けばだいたい巨人が勝つシーズンでもこの疫病神っぷりで、当時一緒に観戦していた仲間は「清田と行くと負けるから」と誰も誘ってくれなくなったそうだ。
清田さんが観に行くと巨人はまるで虫歯を悪化させたかのように、敗退(歯、痛い)敗退(歯、痛い)で敗者(歯医者)となっていた。
エース・菅野智之でも“清田の呪い”は止められない
私は4年ほど前から年に数回、清田さんと現地観戦をする。一度も勝っていない。他の人と観戦すると勝つのに。それでもなぜ清田さんと現地観戦をするのか? それは清田さんが観に行って、巨人が勝つところを見たいからだ。呪いが解ける瞬間に立ち会いたいから。
2018年4月、私は清田さんと後輩芸人のおくまん君と神宮球場に巨人対ヤクルト戦を観に行った。巨人の先発はエースの菅野投手。ここまで3年間ヤクルトに負けていなかった。つまり巨人が勝つ可能性が非常に高かった試合だ。
しかし、この試合で菅野投手は6回5失点でKOされた。打線も5回までノーヒットに抑えられ初安打が出た瞬間、清田さんは「よかった。ノーヒットノーランは回避だ」とつぶやいた。もう観戦基準が低くなりすぎている。
試合に負けると、「俺のせいで面目ない」と謝った。あまりにも負けるので本気で自分のせいで巨人は勝てないのだと思っているようだった。神宮球場を後にして清田さんはお寿司をご馳走してくれた。
「せめてものおわびです。じゃんじゃんやって!」
会計の時「結構いったな!」と清田さんはつぶやいた。その日の菅野投手のピッチングとは違い、会計は高騰(好投)したようだった。
2019年7月、私はおくまん君と2人で神宮球場に巨人対ヤクルト戦を観に行った。その時点で巨人は独走しており、セ・リーグの貯金独り占め状態だった。直近10試合で9勝1敗、5連勝中。なにより今回は清田さんがいない。
私とおくまん君は試合前から巨人の勝利を信じて疑わなかった。しかし……負けた。
「負けましたね」
「ま、こんな日もあるよ。坂本さんの2本のホームランも観られたし悪い試合じゃなかったよ」
そんな会話をしながら帰宅するため私たちは電車に乗った。ふとスマホを見ると、清田さんからメールが来ていた。開いてみると神宮球場をバックに土下座する清田さんの写真が添付してあった。本文にはこう書いてあった。
「すまん、俺がいたばっかりに……」
おくまん君にそのメールを見せると、吹き出して笑った。
「清田さんがいたのか! そりゃ負けますね」
「それにしても清田の呪いは天然の氷だな」
「どういうことですか?」
「なかなか解け(溶け)ない」
「あは! うまい!」
この時点で私もおくまん君も清田の呪いに対して冗談半分の感覚でいたのだが、この後その本当の破壊力を知ることになる。