リモートでも効力を発揮する“清田の呪い”
翌8月。私はおくまん君と東京ドームへ行った。相手はまたヤクルトだった。この時の巨人の状況は前回とは打って変わって2位DeNAに0.5ゲーム差にまで詰め寄られていた。ちょっと前までの独走状態がウソのようだった。
「今日は負けられないな」
「そうですね」
私たちは祈るような気持ちで観戦した。ところが初回にいきなりバレンティンにスリーランを浴び、3点先取された。おくまん君が「まさか、また球場のどこかに清田さんがいるんじゃないですか?」と言うので「あり得るな! 『今どこにいますか?』とメールしてみる」と、私は清田さんにメールを送った。
すぐに返信がきた。「家でテレビ観戦してるよ。いきなり3点取られちゃったねぇ」……よかった。テレビ観戦なら大丈夫だ。だってテレビ観戦まで清田の呪いなんて言っていたら、巨人は全敗してしまうから。
「家なら安心だな」
「そうですね」
おくまん君も安堵の表情を浮かべた。しかし、その後ヤクルトは着実に追加点を取り0対7になった。
「7点差か……ちょっと厳しいかな?」
「まだ4回ですから、逆転を信じましょう」
私たちは巨人の反撃に期待した。すると、ゲレーロ選手や坂本選手のホームランで4対8になった。まだ4点差あったが、ドーム全体が「いける!」という雰囲気になっていた。そして、岡本選手の2本のホームランなどで9対9の同点に追いついた。
「追いついた!!」
ドームがとてつもなく盛り上がった。試合は延長に入り、亀井選手がサヨナラの犠牲フライを放った。見事な逆転勝利!! ドームのボルテージは最高潮に達し、私は周りにいた知らない巨人ファンたちとハイタッチを繰り返した。
夢でも見てるのではないかと思うくらいの劇的な勝利。そのシーズンすでに40試合以上も現地観戦していたおくまん君が「間違いなく今シーズンのベストゲームです!」と言った。
高揚した気分のまま、私たちは居酒屋で祝杯をあげた。いい感じに酒が入った頃、居酒屋にあったテレビからスポーツニュースが流れ始めた。巨人戦をニコニコしながら見つめた。スポーツニュースが終わると清田さんからメールがきた。
「凄い試合を生で観ましたね。うらやましいです。ちなみに俺、7点差がついた時にテレビを消しました」
ゾッとした。背筋が凍った。清田さんがテレビを消してから、あの大逆転劇が始まったのだ。おくまん君にメールを見せると「怖い! 怖い!」と身悶えた。ふと私が「清田の呪い……」と言うと、2人声を合わせてこう言った。
「恐るべし!」
しばらくして、シメに頼んだみそ汁がきた。私は思った。「みそ汁の具まで、今日、麩(恐怖)だな」
2020年9月、清田さんから巨人戦を誘われたが仕事のため行けなかった。おくまん君と観に行ったようだ。試合当日、仕事を終えスマホを見ると、おくまん君からLINEがきていた。
「巨人勝ちました! ついに清田の呪いが解けました! 試合終了の瞬間、清田さん嗚咽(おえつ)を漏らしていました!」
呪いが解けた瞬間に立ち会えなかったのは残念だったが、本当にうれしかった。熱烈なファンなのに、ずっと負け続けて清田さんも悔しかっただろうと思う。
実に6年間。小学校に入学して、卒業する年月だ。あまりに長い。そう、清田の呪いは解けるのも……のろい。
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