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「摘発ですか? 捕まった人がいたなんて…」梅田の地下街で体を売った女性が明かした“悲劇”と“抜け出せない理由”

日本色街彷徨 大阪・泉の広場#3

2021/04/29
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いまもアプリで月1、2人に体を売っている

 彼女にお願いして、携帯に入っていた娘さんの写真を見せてもらった。ぱっちりとした目をした可愛らしい少女が微笑んでいた。その写真を目にして、みどりだけでなく、子どもたちの為にも何とか新たな生活を歩んでもらいたいという思いを抱かずにはいられなかった。

 娘さんには、父親がいないことをどのように伝えているのだろうか。

「お父さんは、死んじゃって、お空にいるんだよと言ってるんです。娘に聞かれる前にこちらから言いました。もしいい出会いがあれば、結婚したいという気持ちもあるんです」

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 将来のために、介護の研修だけでなく、できる範囲で貯金などしているのか尋ねた。

「まったくしていません。これまでの人生で貯金ということをしたことがないんです。ラーメン店で働いていた時も、全部パチンコとかに使っていました」

 生活保護費以外に、みどりはアプリを利用して今も月に1人か2人の男性を見つけては体を売っているという。その額は2万円から3万円になるという。その金を新たな人生のために貯金しようという気はないのだろうか。使い道について尋ねると、やるせない答えが返ってきた。

「パチンコに行くか、ホストクラブに行っちゃいますね」

「止めようとは思わないですか?」

「思わないですね。楽しいですから」

 何も言葉が出てこなかった。カラオケボックスの会計を済まし、外に出ると、ひと足先に店を出たみどりが、夕暮れ時の商店街を歩いていく後ろ姿が見えた。本来なら、となりに5歳と9歳の娘がいるはずだが、その日はいつになれば訪れるのだろうか。

またどこかに「泉の広場」が生まれている

 みどりの取材を終えると、私は兎我野に宿を取っていたこともあり、泉の広場へと足を運んだ。地上から螺旋状の階段を降りていくと、そこには立ちんぼらしき姿はなく、待ち合わせをしている若者のグループの姿があるだけだった。当然ながら、摘発によりひと頃の猥雑な空気は消えた。

「泉の広場」への階段 ©八木澤高明

 ただ、世の中から売春は消えたわけではなく、またどこかに泉の広場が生まれている。そして、この広場で春を売っていた女性たちのことを思い出した。結果的に闇から救出された者、そこをステップに新たな人生を歩もうとしている者、奈落の底から抜け出す道が見える者。

 江戸時代からの色街の因縁から湧き出た見えない泉は、様々な人生の色に染められながら、今日も絶えず湧き出しているように思えてならなかった。

 4月29日(木)21時から放送するYouTube「文春オンラインTV」では、筆者の八木澤高明氏が出演し、記事に書き切れなかった実態について解説する。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

「摘発ですか? 捕まった人がいたなんて…」梅田の地下街で体を売った女性が明かした“悲劇”と“抜け出せない理由”

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