家電量販店には色々な人間ドラマがある。都会に上京して初めての一人暮らしで家電を買い揃える若者。新婚生活をはじめるので、生活家電を二人で選ぶカップル。退職金で大型テレビを買いに来るご年配の方……。2020年以降は家にいる時間が長くなり、掃除機や調理家電、さらにはテレワーク疲れでマッサージ機器が売れるなど、まさに家電は「時代や世相を反映する鏡」だ。
だが、ときにはそんな量販店に「困った客」が訪れて、苦い人間模様が繰り広げられることも少なくない。そこで、学生時代にアキバの量販店でアルバイトをしていた筆者の実体験や、知り合いの店員さんから聞いた話をもとに「家電量販店の“ヤバい客”」についてご紹介しよう。
価格比較サイトの最安値まで値切ろうとする「ネギラー」
「ネギラー」とは、もちろん「ねぎラーメン」のことじゃない。とにかくしつこく値切ってくるお客さんのことだ。超有名なとある価格比較サイトで製品を検索すると、最安値から順に一覧が表示される。お客さんからしてみれば、価格に目星をつけられる便利なサイトなのだが、販売店にとってはとても厄介。
なぜならリストアップされる店は「無店舗型の店」も「一般店舗」もいっしょくたに表示されるから。「無店舗型」というのは、字のごとく店舗を持たない店のこと。マンションや倉庫の一角で通販専門にやっているので、店舗どころか販売店員もおらず、人件費や土地代などの間接費が最小限。しかも自分では在庫を抱えず、お客さんから注文があるとメーカーに発注するシステムなので、在庫リスクもゼロなのだ。
こうして赤字になる原因を極力排除できるので、とにかく安値をつけられる。唯一のデメリットは、注文を受けてからメーカーに発注するので、お客さんの手元に届くまで時間がかかること。だが、店舗によっては倉庫をそのまま店にして「店頭販売あり」としているから、一般店舗とも区別が付きにくい。
かたや「一般店舗」は間接費もかかり、在庫というリスクを抱えているので無店舗型ほど安くはできない。それでも何よりのメリットは、その場で持ち帰り可能という点だ。
無理な交渉で1時間以上粘る客も
たいていのお客さんは、この違いを説明すれば分っていただけるのだが、どうしても分ってもらえないお客さんもたまにいる。「なんで価格比較サイトの××ボ●バーの値段まで下がらない!」と怒りをぶつけながら、とにかく値下げを迫ってくるのだ。
こんなとき、お店に貼ってあるポスターの「競合店より安くします!」というのは、ご近所の一般店舗相手の話だと言ってもダメ。「他店より高かったらご相談ください」と書いてあるのも、「ご相談には乗りますが、提示額まで値引きしますとは言ってないんで!」と口にすることはもちろんできず、「申し訳ありません!」と平謝りして、堪えがたきを堪え、忍びがたきを忍ぶほかない。