昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/05/08

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 芸能, SDGs

「あざとい」がポジティブなイメージに

──時代が松本さんに追いついた、ということでしょうか。

原作小説『最高のオバハン 中島ハルコの恋愛相談室』(林真理子)

松本 そんな!大層なものではありません(笑)! 私はそれまでも同じように演技してきたんですけど、世間のみなさんが私を認識してくださるキーワードがたまたま「あざとかわいい」と重なった、ということだと思います。

 日常生活でも演技でも、「あざとかわいく」見えるようなしぐさや態度をしているつもりは一切ありませんが、たまたま『ホリデイラブ』の井筒里奈のキャラクターが「あざとかわいい」という世間の定義と一致したんだと思うんですよね。

「私も里奈みたいになりたい」とか、髪型やメイク、着ている洋服を教えてくださいという問い合わせが急増したと聞いて、みんな「あざとかわいく」なりたいと思っていたんだなと初めて知ったんです。「あざとい」って悪いイメージのある言葉ですけど、「あざとかわいい」が流行することで、「あざとい」がポジティブなイメージの言葉に転換したらうれしいなと思いました。

©文藝春秋/釜谷洋史

──「あざとかわいい」は、いまはすっかりトレンドのひとつになっています。

松本 そうですよね。『ホリデイラブ』から3年経ちますけど、いまではすっかり「あざとかわいい」が市民権を持ってくれて、すごくうれしいなと思います。

「あざとかわい」くあることは、陰口を言われ嫌われる対象だったのが、世の中の価値観が変わって、「私もあざとかわいくなりたい」と堂々と言えるように変わったのもうれしい。SDGsやジェンダー平等の概念が広がり、日本も少しずつ多様性を認める社会に変わってきましたが、私が里奈役を演じたことがほんの少しでもその一助になれたのなら、こんなにうれしいことはないし、演技を続けてきてよかったなと思います。

©文藝春秋/釜谷洋史

大嫌いだった自分の声

──松本さんは声も魅力的で、2001年の人気ゲーム『FINAL FANTASY X』のリュック役や、2004年に『蒼穹のファフナー』 遠見真矢役など、女優業で培った演技力を生かして声優としても活躍しておられます。でも、その声がずっとコンプレックスだったとか。

最高のオバハン 中島ハルコはまだ懲りてない!』(林真理子)

松本 はい、大嫌いでした。「声が浮く」と言われてオーディションに落ちたこともありますし、「そんな声で女優になりたいの」と言われたこともあります。「この声だからオーディションに通らないんだ」と思って、わざと声帯を傷つけて声をつぶしたこともありました。

 でも、ある時ふと、「私がオーディションに落ち続けるのは、この声のせいだけではない」と気づいたんです。

 結局求められないのは私自身に魅力がないせいで、私自身に魅力があればコンプレックスも魅力になるんですよね。声は確かに足を引っ張る要因のひとつだったかもしれませんが、肝心なのは演技力や人間力を高めることだと思い直して、コツコツと積み重ねてきたら、「あざとかわいい」とか、声がおもしろいと思ってもらえる時代のタイミングがきた感じです。