サービスを利用する方も、される方も、やはり人。いろいろな人生がそこにはあるものだ。
ほどなく、ワタルがテーブル越しに私の手を握った。
ドキドキの時間
「ななさん、ハグしてもいい?」
「へっ!? う、うん。大丈夫だよ」
若干うわずった声で返事をした。
ワタルは私の手を握ったまま、立ち上がってテーブルの脇から私の方へ近づいた。
私を立ち上がらせ、分厚い胸板に私の顔を埋めるように大きな手で優しく包んでくれ、私もそれに応えるようにワタルの背中に手をまわした。
「シャワーはどうする? 一緒に入る? 一人がいい?」
「うーん。せっかくだから一緒に入ろうか」
人とは不思議なもので、ついさっきまでテーブルの距離がちょうどいいと思っていたくせに、一度パーソナルスペースに入ってしまうと、あっという間に親近感をもち、平気になってしまうのだ。
「じゃ、シャワーの準備してくるね。お湯、熱めがいい? ぬるめ?」
「寒いからね、少し熱めがいいかな」
そんなことまで聞いてくれるのかとまた感心した。
私のために……
ワタルは“私のために”冷たいシャワーにならないように浴室を温めてくれている。
そういう健気な姿を見るだけでも女性は感動するだろうなと思った。日常生活で、多くの男性はし得ないようなことだ。
「お風呂温まるまでハグしてよ。キスはしても大丈夫?」
「うん」
シャワーの音が鳴り響く中、数分間抱き合いながらキスをした。
シャワールームも温まる頃、ニットのボタンを一つ一つ器用に外し、洋服を一枚一枚丁寧に脱がせてくれる。
私の服を一枚脱がせ、ワタルも脱ぐ。また一枚脱がせ、ワタルも脱ぐを繰り返し、お互い裸になった。
先にワタルがシャワールームへ入り、私に手を差し伸べ浴室へ誘導してくれ、シャワーを当てて温めてくれた。
私はワタルに背中を向け、鏡の前に立った。
ワタルは自分の両手にボディーソープをたらし、「寒くない?」と気遣ってくれながら両手で包むように私の背中、首、腕、腰、胸、お腹、脚と順番に優しく洗ってくれた。
ボディーソープの泡を洗い流している途中、ワタルはシャワーのノズルを私に渡し、先に出てしまった。
ワタルは、私がシャワールームから出ようという時に、ちゃんとバスマットを敷き、両手にバスタオルを広げて待っていた。
「あははは。なんか恥ずかしいね(笑)。子どもにでもなった気分だよ」
「そう? ななさんのために、全部してあげたいよ」
バスルームを出ると、さっき脱ぎ捨てた洋服がきちんと綺麗に畳んである。もうすでに十分すぎるサービスだ。気の利き方が半端ではない。
「普段女性がして当たり前、女性がするべき仕事」と思い込まされていることを、綺麗な顔をした男性がさらっとやってのけるとこんなにも感動するものかと思った。