対象年齢で区切る方法は進んでいる
――どういうことでしょう?
ラリー ホラー映画を見て、あまりの怖さに夜中にトイレに行けなくなるっていう現象があるじゃないですか。それはフィクションとして作られた作品があまりにもリアルだからですよね。ホラー映画の監督がその話を聞いたら「そんなに怖がってもらえるなんて嬉しいなあ」と感じるのではないでしょうか。芸人もそれに近いところがあって「フィクションとしてやっている『イジり』を、そんなにもリアルに受け取ってくれるんですね」というふうに思っている側面もあると思うんですよね。
――漫才はもちろん、フリートークに見えても芸人の言葉はすべて作り物、フィクションであるということでしょうか。
ラリー 芸人がテレビや舞台で演じている容姿ネタというのは、一般人が普段言っている悪口とは全く別物で、緻密に組み立てられたフィクションのやり取りなのです。でも、プロの芸人たちは、そんな笑いの裏の部分についてわざわざ表立って言うことはありません。マジシャンが自分からマジックの種明かしをしないのと同じで、芸人が「ネタなので本気にしないでくださいね」と言うことは基本的にありません。そんなことを言った瞬間にお客さんは興ざめしてしまいますから。だから、私のような部外者が、芸人の代わりにあえてこういう無粋なことを言っているという部分もあるわけです。余計なおせっかいだとは思いますが。
――アンケートでは、子供はお笑いがフィクションであることがわからず真似をしてしまうので禁止してほしいという声もありました。「性描写や暴力描写と同じようにR18指定にすれば良い」とする意見がありましたがどう思いますか?
ラリー お笑いの対象年齢を区切るという手法はすでに行われています。例えば、Amazon Prime Videoの『ドキュメンタル』は「PG12(12歳以下は保護者の助言や指導が必要である)」指定がされています。ネット配信のコンテンツでは、見たくない人が見なくていい環境づくりは進んでいます。
観客は何も考えなくていい
――ラリーさんから見て、容姿ネタはまだ「テレビで放送できないお笑い」には含まれていないということですね。
ラリー 容姿ネタがテレビから消えるのか、劇場でもやらなくなるのかは、観客や視聴者のリアルな反応の結果として自然に決まってくるものだと思います。ただ、お笑いネタのあり方について考えるのは芸人やメディア側の仕事です。見ている側は何も考えずに、笑えるものは笑って、笑えないものは笑わなければいい。もちろん不快だと感じたものは「不快だ」と声を上げればいいんです。芸人は観客の反応を誰よりも気にしていますから、客席の空気に合わせてネタも自然と変わっていくはずです。芸人はただ「ウケたい」と思っているだけで、自分からモラルを逸脱したいと思っているわけではないですから。
お笑いは芸人と観客のコミュニケーションです。見たくない人が多いネタが消えていくのは自然なことですが、容姿ネタ全般が問答無用で許されないと言われてしまうのは、個人的にはちょっと息苦しいなと思います。