芸人の「容姿ネタ」で笑えるか否か――。4月20日から26日までの7日間、「文春オンライン」上で「お笑い芸人の『容姿ネタ』見たいですか? 見たくないですか?」という緊急アンケートを行ったところ、回答者のうち65.5%が「あまり見たくない」「絶対に見たくない」と容姿ネタに否定的な意見を寄せた。
このアンケート結果をお笑い業界に詳しい専門家たちはどう見るのか。
「こうなる予想はしていました。ただ、お笑いはシチュエーションや文脈などさまざまな要素が複合的に絡み合って構成されているものなので、一概にNGというのは難しい」
こう指摘するのはお笑いライターの鈴木旭氏だ。アンケート結果をもとに鈴木氏に「容姿ネタ」論争への私見を聞いた。(全3回の3回目。#1から読む)
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どんな話の流れで容姿ネタを披露するか...大事なのは文脈
――文春オンラインのアンケートでは、「容姿ネタ」を見たくないという人が3分の2近くを占める結果になりました。
鈴木旭氏(以下、鈴木) まあ、そうなりますよね(苦笑)。1980年代から90年代ごろの「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」(日本テレビ系)でやっていたような、寝起きドッキリの早朝バズーカとかタレントにビニール袋を被せて真空パックにするような“過激なお笑い”はなくなりました。同じように、容姿ネタへの反応も時代とともに変化してきたのだと感じています。
――鈴木さんは、アンケートにご回答いただくとしたらどれを選びますか?
鈴木 僕も、容姿イジりに使われる「ブス」「デブ」といったワードだけを注目すれば積極的に見たい、聞きたいとは思いません。そういう意味では「B.あまり見たくない」でしょうか。でも、芸人さんの容姿“ネタ”自体は「A.見たい」です。どんなネタであれ、楽しめるものであればいいのかなと思っています。
――その違いは何でしょうか。
鈴木 文脈です。どの芸人さんが、どんな舞台で、どんな話の流れで容姿ネタを披露するかによって、笑えるか笑えないかが変わると思うんです。コンビだったらその2人がどんな信頼関係を築いているかが伝わってくるだけでも温度感が違うと思うので、一概にダメとは言えないですね。
――「A.見たい」を選んだ人のなかには「プロの技で見せて欲しい」という回答がありました。
鈴木 僕も同じです。過去に、コント作家の修業として芸人さんと一緒に舞台に立ったことがあるんですが、僕が書いた台詞を自分が言うとウケないのに、芸人さんが言ったらウケたってことがあって。そのときに、観客は演者の容姿や雰囲気、間のとり方や声のトーンを含めて笑うんだと気付きました。見ていて簡単そうでできないのが「プロの技」なんですよね。
――4月18日放送の「ワイドナショー」(フジテレビ系)では、容姿ネタを“封印”した3時のヒロイン福田麻貴さんに、松本人志さんが「(ウケないのは)単純に3時のヒロインのポテンシャルが低いのかもしれない」という指摘をされていました。
鈴木 容姿ネタのような攻撃性のある笑いは、ボケる側とツッコむ側にそれ相応の信頼関係と技量が求められると思うんです。
僕は、容姿ネタとか差別的な要素がある笑いを扱う芸人さんに対して、フグを捌くプロの料理人に近いと敬意を持って見ています。フグには毒があるけれど、プロが捌いたら新鮮でおいしい食材になる。一方で、素人が捌いたフグは怖くてとてもじゃないけど食べられません。