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そして結婚相談所にも入会していた

「なんでしょう、これ」  

 小さくたたまれたその紙は領収書だった。〈入会費用の一部として〉13万5000円、日付は27年7月23日。八王子ではなく、隣県の住所。〇〇ブライダル。

 ヘルパーさんと顔を見合わせる。「結婚相談所?」えーっ、と2人して声が出てしまう。平成27年7月、父は79歳だ。79歳で入会したってこと?

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「すみません、そちらに父が入会した? ようなんですが」

 問い合わせると、仲人から折り返させますと言われた。十数分後、領収書の収入印紙に押された印鑑の名前の人から電話がかかってきた。

「北村さんの、お嬢さん?」いがらっぽい咳払い。

「長女です。領収書を見つけまして」

「あー、そうですか」

 60代後半くらいの女性だ。また空咳。軽侮が混じっていると感じるのは気のせいか。

「どうして父がそちらを知ったんでしょうか。八王子から遠いですよね」

「こちらからお電話したら、お運びくださったんですよ」

「なぜ電話を? 母が亡くなったことをご存じだったんですか」

「えーと、名簿です、名簿」

 ああ、またか。またセールスか。セールス電話や訪問は特殊詐欺とそう変わらないのじゃないかと、何度も思ったことをまた思う。

「お父様、寂しいって。パートナーが欲しいとおっしゃってましたよ」

 なんて気持ちの悪いことを言うのだろう。

「そちらのHPに、男性は定職のある方のみって記載されてますよね? 年金生活者を入会させたんですか?」

「年金は定収入ですからね。あのねえ、社会にはお嬢さんが思う以上に、寂しいとおっしゃる高齢の方多いんですよ」

 こちらの質問を聞こうとせず、かぶせるように話してくる。自然とこちらも声が大きくなってしまう。

写真はイメージです ©iStock.com

入会「した」のか「させた」のか?

「父はいつまで入会していたんですか?」

「お支払いいただいたのは入会金だけですよ。本当はそのあと月会費がかかるんですけど、私は厚意で2年間、女性の情報を差し上げてました」

「厚意? 会費も払わない会員に、厚意で?」

「ええ。お父様真剣でしたから」

 海千山千の声が苛立ちをかきたてる。ちなみに、筆者はかつてラジオでニュースを読む仕事をしていた。あの頃の滑舌を久しぶりに発揮してやろうじゃないの、と挑発に乗るような気持ちになる。

「当時、父は認知症の症状が出始めていたかもしれないんです。お気づきになりませんでしたか?」

「えっ、お父様とてもしっかりしておられましたよ?」

「それは〇〇さんの判断でしょう? 〇〇さん、専門家じゃないですよね。受け答えの感じで勝手に判断して入会させたんですか。高齢者の入会に際して、それはあまりにも」

「させたんじゃなくて、お父様が自分の御意志で入会されたんですよ」