万引きを選ぶ子が3割
―― 不適切動画のトラブルは、佐々木さんの本にもたくさん出てきます。友だちと悪ふざけしたときの動画をInstagramのストーリーにアップしたら、他のSNSで拡散されていて、それに気づいた一流企業が内定を取消した野球部の子の話には胸が痛みました。
佐々木 子どもたちはなんでもスマホで撮影するので、不適切動画だと思っていないのです。だから、何も考えずにSNSに画像や動画をアップしてしまう。ネットの世界が当たり前になって、思考停止になってしまっているんですね。
だから僕は、ネットリテラシーについて中高生に講演するとき、よくクイズを出します。
たとえば、「近くにコンビニがあります。あなたはとてもお腹がすいています。でもお金は持っていません。何をやっても構いません。どうやって問題を解決しますか?」
こう聞くと大抵、3、4割の子が「万引きする」と答えるので、「はい、逮捕!」と言うと驚かれます。もちろん他の子は、「コンビニで1時間働かせてもらって、そのバイト代で食べものを買う」「とりあえず家に帰る」「後でお金を払うのでおにぎりをください、とお願いする」など、いろいろな方法を考えます。でも犯罪である「万引き」を選択肢にする子が、必ず一定数いるのです。
万引きを選んだ子から、「何をやっても構わないって言ったのにズルい」と言われることもあります。そのときは、「何をやってもいいからといって、万引きが犯罪にならないわけじゃないよね?」と教えます。それくらい、何が悪くて何が良いのかわからない子が少なくないのです。
投稿やアカウントを削除してもデジタル記録は残る
―― 佐々木さんが刑事を辞めたのも、子どもたちを犯罪から守るための教育活動をするためだったそうですが、親が子どもに教えるべきことはなんでしょうか。
佐々木 怪しいことは怪しい、悪いことは悪いと気づくための、直感力や発見力を鍛えるには経験値が必要です。自分の知識と経験に照らし合わせて判断すれば、「書類を受け取るだけで2万円」の求人募集を見ても、「怪しい」と感じて近づかないはずです。
また、今の子どもたちは想像力も欠如しがちです。先日、焼肉屋のアルバイト店員が、ソフトクリームを機械から直接口に入れた動画をアップして炎上しました。不適切動画投稿によるいわゆる「バイトテロ」ですが、それがどういう事態を招くか想像していないわけです。その場のノリや勢いで不適切動画をネット上にアップした子が、警察に捕まったり損害賠償を請求されたりしています。
SNSによる誹謗中傷が原因で自殺する人や、損害賠償を求めるトラブルも後を絶ちません。今は匿名アカウントで他人の誹謗中傷を「いいね!」したり、リツイートしただけでも、法的開示請求によってアカウントを特定され、裁判を起こされるケースも増えています。「アカウントを削除すればバレないでしょ」と軽く考えている人も多いのですが、一度ネット上に投稿された記録は、投稿やアカウントを削除してもデジタル記録は残ります。そういうリスクも子どもにはしっかり伝えてほしいですね。