ローズが口ずさんだ歌と彼女の“飛翔”
『タイタニック』でジャックは、海上に浮いたドアにローズを優先して乗せ、「必ず生き延びると約束してくれ」と励ます。救助を待つ間、ローズは朦朧とした意識の中、自分をタイタニック号の舳先に立たせてくれた時、ジャックが歌っていた「Come Josephine In My Flying Machine」を口ずさむ。これは1910年のヒット曲で、男性がジョゼフィーヌという女性を飛行機に誘う内容だ。
階級のしがらみに縛られ窮屈な思いをしていたローズにとって、ジャックというのは自分が“飛べる”ということを気付かせてくれた存在だった。「Come Josephine In My Flying Machine」の歌詞に出てくる男性のように、ローズを飛翔へと誘うジャック。この歌を口ずさむ彼女の視線の先には、無慈悲なまでに美しい天の川が広がっている。自分には決して手が届かないかもしれないはるかかなたの空。その時、救助に戻ってきた救命ボートの明かりが見える。この時、ジャックは既に息絶えていた。
ここでローズはついに自分で“飛ぶ”。凍えた体に鞭打ってドアを降り海に入って、死体が持っていた呼子を吹き、ボートを呼び戻すローズ。生きるために自ら選択し行動すること。海に沈んでいくジャックにローズが呼びかけた「あなたを忘れない」という言葉は、単なる「初恋の永遠性」ではなく、「あなたが教えてくれた“私は飛べる”ということを私は忘れない」ということでもあるのだ。
ジョバンニとカンパネルラの「どこまでもどこまでも一緒に」
一方、『銀河鉄道の夜』のジョバンニとカンパネルラの別れは突然にやってくる。
家庭教師と姉弟も銀河鉄道を降り、再び2人きりになるジョバンニとカンパネルラ。だが、原作では、ジョバンニが「どこまでもどこまでも一緒に行こう。」と話しかけた瞬間、既にカンパネルラの姿は消えている。映画では、カンパネルラは客車から歩み去り、ジョバンニはその後姿を追いかけても追いつくことができない。
そこでジョバンニは目を覚ます。丘を降りていくとジョバンニは、カンパネルラが級友を救うために川に落ちたことを知らされる。
映画はここでジョバンニの「ああ、僕はカンパネルラがあの銀河のはずれにいることを知っている。僕はカンパネルラと一緒に歩いてきたんだ」という台詞を加えている。この時画面は、川面から橋ごしに天の川を見上げる映像を通じて、地上の川と天の川が繋がっていることを示す。
その後、原作ではまだいなくなる前のカンパネルラに語りかけた内容が、「僕はもう、あのサソリのように、ほんとうにみんなの幸せのためなら、僕のからだなんか百ぺん焼いてもかまわない。カンパネルラ、どこまでもどこまでも一緒に行くよ」と少し改めてモノローグで語られることになる。