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「タイタニック」の悲劇はなぜ『銀河鉄道の夜』に描かれたのか 一人の日本人乗客が結ぶ2つの“残されたものの物語”

2021/05/07
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 原作は、ジョバンニが「どこまでもどこまでも一緒に行こう。」と呼びかけた後、カンパネルラが「あすこがほんとうの天上なんだ」と車窓の外を指差すが、ジョバンニにはそこが「ぼんやり白くけむっているばかりどうしてもカムパネルラが云ったように思われませんでした。」というふうに見えている。この断絶のまま原作は物語の終幕へと入っていく。

アニメ映画『銀河鉄道の夜』

 これに対し、映画は2人の潜在的な認識のギャップを描きつつも、その後に「どこまでもどこまでも一緒に行くよ」と台詞を置いたことで、「選ぶ道は違えど、理想は同じ」という意味合いが前面に出て物語を締めくくることになった。

残されたものと、先に逝ったもの

 このアニメ映画のジョバンニの「どこまでも一緒に行くよ」は、『タイタニック』の「あなたを忘れない」という台詞と響き合っている。残されたものは、先に逝ったものから何かを受け取っている。それを忘れない限り、死者は死ぬことはないのである。

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映画『銀河鉄道の夜』は最後に「ここよりはじまる」というテロップで締めくくられる。この言葉は、ニューヨークに到着し、自由の女神を見上げるローズの人生にも、まさに当てはまる言葉だ。「ここよりはじま」り、彼女は十分に生きることになる。

 そんなローズの人生を思う時、では少年ジョバンニは、その後、どのような人生を生きたのだろうかという答えのない問いも頭に浮かんでくる。ローズのように老いて、それでもなおカンパネルラのことを忘れることはなかっただろうか。ローズが夢でジャックと再会するように、夢でカンパネルラと会うことはあったであろうか。

『タイタニック』劇中より ©️getty

『タイタニック』と『銀河鉄道の夜』は、決して似ている映画ではない。でも細野正文のつなぐ縁をきっかけにして並べて見ると、お互いを照らし出すような要素がそこここにちりばめられているのである。

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【参考資料】
『タイタニック ジェームズ・キャメロンの世界』(ポーラ・パリージ、訳:鈴木玲子、ソニー・マガジンズ)
『宮沢賢治の真実 修羅を生きた詩人』(今野勉、新潮社)
『アニメーション「宮沢賢治 銀河鉄道の夜」設定資料集 増補新装版』(復刊ドットコム)
『タイタニック 祖父の真実』Webナショジオ

「タイタニック」の悲劇はなぜ『銀河鉄道の夜』に描かれたのか 一人の日本人乗客が結ぶ2つの“残されたものの物語”

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