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「煙突の下に鍋を用意したこぶたは、狼に計画的な殺意があった?」  ‟判決の出ない法廷ドラマ ”『昔話法廷』のヒントとなった‟三谷幸喜作品”とは

『昔話法廷』ディレクターインタビュー #1

2021/05/15

 NHK Eテレで2015年から2021年3月にかけて放送された、平日午前中のとある番組が、豪華キャストの起用と、革新的な内容で話題を集めた。

 その番組は『昔話法廷』という法廷ドラマシリーズ。誰もが知っている有名な昔話をモチーフに、作中の登場人物の行動を罪に問い、その供述や検察官と弁護人の質疑をもとに裁判員が判決を考えるという内容だ。

 例えば第1話の「三匹のこぶた」は、ご存じの通り“手間暇かけて作ったもののほうが丈夫で長持ちする”という教訓のお話。しかし『昔話法廷』では、「煙突の下に鍋を用意したこぶたは、狼に対して計画的な殺意があったのではないか?」という疑いで、こぶたが被告人となり裁判にかけられる。

「三匹のこぶた」ではこぶたが被告人となり裁判で殺意を問われる。

「白雪姫」では白雪姫を毒殺しようとした王妃、「浦島太郎」では浦島太郎に玉手箱を渡した乙姫など、被告人としてわかりやすい人物に焦点が当たることもあるが、「赤ずきん」では赤ずきん、「桃太郎」では桃太郎といった具合に、物語で“善”とされる主人公が被告人になることも多い。

 そして、番組の中で裁判の判決は描かれない。あくまでストーリーは、裁判員の判断材料となる犯行の状況や動機の説明に終始し、「有罪か無罪か」「執行猶予か実刑か」「死刑にするかしないか」は、視聴者自身が考える内容となっている。

 新しいエンタメ作品として人気を博した『昔話法廷』の最終章である「桃太郎」は、キャストに天海祐希や佐藤浩市、脚本家には森下佳子といった大御所を起用するなどして大きな話題を呼んだ。

 この番組を企画立案し、全ての作品の演出を手がけたNHK制作局ディレクター・平井雅仁氏に、番組ができあがるまでの経緯や制作秘話について話を伺った。(全2回の1回目。後編を読む)

「桃太郎」で検察官を演じる天海祐希さん

対話や議論のできる「アクティブラーニング」への対応

――番組構想のきっかけを教えてください。

平井 私はドラマ畑ではなく、教育番組を作る部署の人間です。番組がスタートする2015年の前年に、学校の授業で教材として使われる「学校放送番組」を制作する班へ異動になりました。

 ちょうどその時期、教育の現場では、「アクティブラーニング」の重要性が叫ばれ始めていました。「先生が一方的に教えて、子どもたちが受け身で聞く」のではなく、「子どもたち自身が主体的に考え、対話を通して学びを深める」という新しい授業のスタイルです。

 当然、学校放送番組でも、子どもたちが対話や議論のできる内容を求められるようになりました。では、どんな番組を作れば議論が盛り上がるのか。それを考えるヒントになったのが、三谷幸喜さんの『12人の優しい日本人』(1991年)という映画でした。