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NHKの本気を感じる『昔話法廷』とは?――てれびのスキマ「テレビ健康診断」

『昔話法廷』(NHK)

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検察官役の小西真奈美 ©文藝春秋

 夏はNHKの“本気”を感じる季節だ。

 総合テレビでは終戦記念日前後に毎年、戦争に関するドキュメントを放送。今年もインパール作戦や731部隊などを特集。戦後70年以上経ったにもかかわらず、新事実や新たな切り口で番組が作られ続けていることに驚嘆する。一方、Eテレでは、子供たちが夏休みに入るのに合わせて、教育番組に力が入る。もちろん、1年中放送されているが、その中でも選りすぐりのものが編成され、特別編が制作される。また、夏休み特別企画としてとっておきの番組が放送されたりもする。そのひとつが『昔話法廷』だ。

「三匹のこぶた」や「白雪姫」など誰もが知る昔話を裁判にしてしまう裁判員制度の啓蒙番組で、2015年以降、夏休み期間中に放送されている。今年の新作は「ヘンゼルとグレーテル」と「さるかに合戦」。いかに力が入っているかは豪華な役者陣を見れば分かる。たとえば前者の検察官役は小西真奈美、弁護人役に志賀廣太郎、そして視聴者の目線となる主人公の裁判員に『ひよっこ』のメガネっ娘・澄子を演じている松本穂香。加えて、証人の白い鳥の声はハマケンこと浜野謙太が務めている。

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 被告人として登場するのはヘンゼル(二宮慶多)とグレーテル(新井美羽)。罪状は魔女を殺害して金貨を奪った「強盗殺人罪」。弁護側は、出来心で金貨を盗んだ「窃盗」は認めつつも、殺害に関しては「正当防衛」を主張している。証人尋問では白い鳥が、魔女は人食いなんかではない、優しい人だと証言。その後も、目が見えない魔女に鶏の骨を使って太っていないことを偽装したというのは無理があるだとか、大きな体の魔女を少女がたった1人でかまどの奥に押し込めたか、など昔話の物語上の疑問点が、被告にとって不利な要素として提示されていくのが文学批評的でもあって面白い。

 この番組は、裁判員制度啓蒙の教材としても優れているが、それ以上にメディア・リテラシーの教材としても優れている。常識や正義と伝えられてきたものや、前提としてきたものが本当に正しいのか。一般的に信じられている「物語」が、角度を変えれば、まったく違うものに見えてくることもあることを証明している。そして何より、「面白い」。子供騙しでは子供は騙されない。大人が見ても引き込まれる面白い法廷ドラマだからこそ、教材になり得るのだ。

▼『昔話法廷』
NHK Eテレ 夏休み期間中だけのおたのしみ。

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