NHK Eテレで2015年から2021年3月にかけて放送された、平日午前中のとある番組が、豪華キャストの起用と、革新的な内容で話題を集めた。
その番組は『昔話法廷』という法廷ドラマシリーズ。誰もが知っている有名な昔話をモチーフに、作中の登場人物の行動を罪に問い、その供述や検察官と弁護人の質疑をもとに裁判員が判決を考えるという内容だ。そして、番組の中で裁判の判決は描かれない。あくまでストーリーは、裁判員の判断材料となる犯行の状況や動機の説明に終始し、「有罪か無罪か」「執行猶予か実刑か」「死刑にするかしないか」は、視聴者自身が考える内容となっている。
この番組を企画立案し、全ての作品の演出を手がけたNHK制作局ディレクター・平井雅仁氏に、出演した豪華俳優や脚本家の起用について話を伺った。(全2回の2回目。前編を読む)
名だたる俳優たちが生み出す説得力
――最終章の「桃太郎」では天海祐希さんや佐藤浩市さんを起用し、それ以外の回でも豪華キャストが話題になりましたが、俳優の人選にこだわりはあったのでしょうか。
平井 ターゲットである子どもたちを惹きつけるために意識していたのは、「大人が楽しめるホンモノ」を作るということです。“子どもだまし”なものを作っても、子どもには見抜かれてしまいます。
「昔話で裁判する」って、それ自体がかなりのファンタジーです。ファンタジーなものをファンタジーとして作ってしまったら、こういうものの面白さは出ない気がして、とにかくリアルに大真面目に作ろうと決めていました。それは、脚本も、役者の演技も、動物のマスクも全部そうです。「笑わせよう」と思ってやった演出は一つもないんです。ファンタジーにリアルやシリアスが掛け合わされるからこそ、独特のシュールさが生み出されると考えていました。
そうすると、オファーを出す俳優さんは、必然的に「このファンタジーに説得力を与えてくれる演技力や雰囲気を持った方」ということになりました。豪華さをねらったわけではありませんが、名だたる方に出てもらえたら、番組が持つ世界観とのギャップで、面白さは際立つだろうなという思いはありました。