森下さんの生み出す「深くて長い余韻」が必要だった
――そして、脚本を森下佳子さんが担当したことも話題になりました。
平井 森下さんは、『白夜行』(2006年・TBS系)というドラマを観て以来、大好きな脚本家さんでした。これは個人的な印象かもしれないのですが、森下さんがお書きになる作品て、どれも、とてもシンプルだと思うんです。
今年放送された『天国と地獄~サイコな2人~』(TBS系)も、“刑事と殺人鬼の心が入れ替わる”という仕掛けこそ難解ですが、観終わったあと胸に残るものは、いたってシンプルというか。だからこそ、深くて長い余韻がある。
「桃太郎」回で、「差別や偏見」をテーマに扱うことは最初から決めていました。ただでさえ重くて敬遠されがちなテーマです。それらを、視聴者に、番組を観た後も考え続けてもらうためには、森下さんの生み出す「深くて長い余韻」が必要だと思いました。
はじめは、こんなニッチでマイナーな番組引き受けてもらえないだろうなぁと思って、オファーを躊躇していました。そんな時、森下さんの過去のインタビューを見つけたんです。そのインタビューで、森下さんは、「作品を書く上で大切にしているのは、両義性。一人の悪者を描くときにその悪者の視点も忘れないように描く」とおっしゃっていました。『白夜行』が大好きな理由もまさにそこにあるのですが、それを読んで、この番組の意図している部分とハマった気がして、思い切って手紙を書きました。
観返してくうちに感じることが変化していく番組
――最終章の「桃太郎」でシリーズは完結でしょうか。
平井 これまで学校教材として11本を作ってきて、考えてもらう争点やテーマは一通り揃ったかなというのが、一区切りつけた理由です。
それに、教材である以上、判決がなるべく五分五分に分かれるようにしなければならないので、そうすると、どの昔話でもできるわけではないんですよね(笑)。でも、また何か、面白い案が思い浮かんだら、作ってみたくなるかもしれないですね。その場合は、裁判員裁判ではなくなりますが、民事事件も面白いかもしれません。
――改めて、視聴者に対してメッセージをお願いします。
平井 番組は、「NHK for School」というポータルサイトで全話配信しているので、学校の先生方にはぜひ授業で使っていただきたいですし、お家で親子いっしょに観て話し合ってほしいなと思います。作った本人が言うのもアレなんですが、『昔話法廷』は最初に観たときと、二度三度観返した時とで、感じることが変化していく番組だと思っています。番組を観たみなさんの世界が少しでも広がると嬉しいです。
※『昔話法廷』は、NHK for Schoolで全話公開中です。
(文=二階堂銀河/A4studio)