15分で一話完結のドラマを作るため昔話のストーリーをそのまま事件化
――「もし日本に陪審制があったら」という架空の設定で、陪審員に選ばれた一般市民が、ある殺人事件の真相をめぐって議論をしていく内容の作品でしたよね。
平井 陪審員たちの丁々発止のやり取りがほんとに面白くて、学生時代から何度も観ていました。「同じような議論を、子どもたちが教室で出来たら楽しいだろうなぁ」と思ったのが、「判決の出ない法廷ドラマ」を作るきっかけになりました。その5年前に日本で裁判員制度が始まったというタイミングもよかったと思います。
――では、昔話をモチーフにしたのは、どういう経緯だったのでしょうか?
平井 「被告人の〇〇さんは、コレコレこういう境遇にあったので、××な罪を犯し~」というふうに、イチから事件を組み立てても子どもたちは感情移入しにくいし、何より15分という短い放送時間の中で説明するのは難しい。しかも、作り方によっては“裁判員制度の啓蒙ビデオ”みたいな感じになってしまいます。
そうではないエンタメ作品を作るにはどうすればいいか考えたとき、思いついたのが、「昔話をモチーフに使う」ということでした。そうすれば、昔話のストーリーそのものが事件の概要になるのでイチから事情を説明しなくてもいいし、子どもだけじゃなく幅広い世代の人に馴染み深いのではないかと。
何よりも、昔話の主人公を裁くことで、観ている人の価値観が逆転して、ちょっとしたダイナミズムみたいなものが生まれるんじゃないかと思いました。そうした経緯で出来上がっていったのが、『昔話法廷』でした。
悪とされている人たちの声にも耳を傾ける
――『昔話法廷』全11本の多くが、原作では“正義”とされている人物が被告人として裁かれる話です。その点も含めて、番組のねらいを教えてください。
平井 自分のなかで大事にしているポイントは、「正義を裁く」ということではなく、「もう一方の悪とされている人たちの声にも耳を傾ける」ということです。そして番組の中で、判決は出ません。番組を観た子どもたちが自分なりの判決を考え、友達や家族と議論します。その過程で、子どもたちに、多角的に考えること、様々な立場の人に思いを馳せることの大切さに気付いてもらうのが、番組のねらいです。
――番組は、学校のどんな授業で使われているのでしょうか?
平井 使われ方は様々です。小学校、中学校、高校では、公民や道徳、国語のディスカッションの授業だったり、総合的学習の時間であったり。大学だと、法学の授業で使用されています。