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公金を使う飲み会は必要!?

 分団長に直接取材する前、男性とは何度か会って念入りに準備を進めた。幽霊団員の報酬・手当が不正請求されている証拠となる口座の明細をどのタイミングで提示すべきかが焦点だった。

 チャンスは一度きりしかなかった。通帳を再発行したことが支店を通じて消防団に情報が漏れ、キャッシュカードや印鑑が悪用されたり、男性が地域で村八分にされたりする懸念があった。取材相手に判断を委ねたが、一任してくれたことは本当に大きかった。口座に入金されている金額は、報酬の額と合わなかったが、共済掛金の額が差し引かれて振り込まれていることが分かった。

 男性には新規口座を作成した記憶をもう一度確認した。入団時、分団長の自宅に呼ばれ、まったく説明のないまま書類4~5枚にサインするように促され、言われるがまま署名したというが、それが口座開設や管理に関する委任状だったかは分からないままだ。

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「少なくとも口座を作る説明はまったくなく、本人確認書類も渡していないのに、なぜ口座が作れるのか。口座の話は分団に参加するうちに、他の団員から噂を聞いて知ったんですが、口座開設のノルマに協力する意味もあって、本人の委任状や印鑑をそろえた上、関係性が明確であれば作れるということを教えてもらいました」

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 男性の報酬・手当が振り込まれる口座を発行する農協系の金融機関にも取材した。一般的に本人が同意をしていないにもかかわらず、口座が作成され、消防団の報酬・手当を引き出すことはできるのか。農協系の金融機関の担当者は、

「ご本人の確認が取れる書類の確認が取れた上で、申込書を作成している。ただ、ご本人自身が来られない場合は、代理人がご本人確認を取った所定の書類に捺印していただいたものを持参してもらえればそれでも受け付けています。それと同時に依頼書をもらって処理しています」

 慎重に言葉を選びながら、何度も同じ質問をしてみても同じ回答だった。

 男性は退団の申し出について、約1カ月間、集中的に分団長に願い出たが、頑なに受け入れてもらえなかった。一方、分団の活動にまったく参加しなくなると、それはそれで出動率が低いと注意を受けることもあった。

「たまには分団の活動に参加していないと市や消防署から怪しまれることを警戒したのかもしれません。飲み会は毎回、派手に飲み散らかすので分団で一人数万円の報酬がプールできると、3~4回分の費用のあてにはなりますしね」