幽霊消防団員の存在を認めるような発言
正式に退団できていない証明として、入団後まもなくして配られる分団員の身分証明書も見せてもらった。だが、この身分証明書を返却しようと思っても分団長は受け取ってくれないという。
「体調のこともあったので、私はこの約5年間、団の活動には一切参加していません。なのに、バカみたいに公金を不正受給して飲み食いに利用していると思うと本当に腹立たしいです」
男性のみならず、他の団員が不思議に思っていないのか。素朴な質問をしてみると、
「飲み会のお金を一切払ったことがないことをいいことに感覚が麻痺した人ばっかりです。公金という意識はまったくないと思います」
当時の分団長にあたってみようとしたものの、すでに亡くなっていたため、現分団長にあたってみた。市職員でもある分団長は取材に対し、団員には入団時に誓約書を書いてもらい、同意の上で口座を管理していると主張した。集めた報酬は分団の経費のほか、飲み会や旅行の代金の一部などに充てているとも説明した。事実上退団した団員の報酬を使っていることについては、
「うちでは原則、後任を連れてこないと辞められないので団員という認識です。分団の責任ではない」
幽霊消防団員の存在を認めるような発言で、否定はしなかった。
辺りは住宅地と昔からの農家が混在している地域で、岡山市の中心市街地まで車で20分程度。通勤ラッシュ時は、渋滞が激しく、道路が狭かったり一方通行が多かったりする場所もある。地区の東端には人工河川も流れていて、水害が起きる危険性もある。もしものことがあった際、地域に詳しい消防団が果たすべき役割は大きそうだ。
血税を使っているという認識がない
男性に紹介してもらい、市内の他の消防団員にも取材した。すると、幽霊消防団員の存在をさらっと認めただけでなく、
「仕事も年代もバラバラな人たちがまとまって行動するには、日頃から付き合いを深めておくことが重要で、飲み会は必要。そのための軍資金としては仕方がないところがありますし、病気や転勤だったりするとそういう時は仕方なく欠員のままで、私が何人か声を掛けて入ってくる人がいたら入れるようにしているんですがね」
あたかもそれが当然のように口にする姿に違和感を覚えた。血税を使っているという認識はまったくなかった。
幽霊団員の男性は報道後、分団に通帳の返却を求め続けた。だが、なかなか返してくれず、約半年間にわたって同じことを言い続けた後、ようやく通帳などを返してもらい、退団手続きも済んだという。返却する際には、外部に口外しないように念を押され続けたという。そして、男性は消防団が活動するエリアから別の地区に住まいを移した。
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