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2021/05/18

genre : ニュース, 社会

消防局に携わる職員も見て見ぬフリ

 市の財政課は幽霊消防団員の存在を知っているのか、不思議だった。後に明らかになったことだが、消防局に携わる職員でもこの問題を自覚している人が一定数いながら、見て見ぬフリをしていたのだった。取材で知り合った消防職員が打ち明けてくれた。

 市消防局の言い分は、活動報告がゼロだった348人全員を幽霊消防団員と位置づけることはできないということだった。履歴はないが、活動していると思う、ということだった。幽霊団員の存在は、全国各地で噂され、インターネットで検索すれば団員と思われる人の実体験がいくつも掲載され始めていた。

 ただ、こちらが調査依頼をかけるまでは、一定期間、活動履歴がない団員の実態は何も把握できていなかった。消防団から提出される出動報告書を見返す作業が必要なため、業務量が増えるとしてあからさまに煙たがられた。

「公金が何に消えているのか。市はしっかり調べてほしい」

 男性は、約5年前に体調を崩して消防団に退団を申し出て以来、団員としての活動には一切関わっていない。岡山市に在住する男性は淡々と訴えながらも、机の上で拳をぐっと強く握る。2017年、消防団の報酬・手当が振り込まれる個人口座の入出金記録を取り寄せようと、最寄りの金融機関の支店を訪れてくれた。

 男性は知人の誘いで消防団の富山分団に入り、振り込み用の口座を農協系の金融機関で開設してキャッシュカードと通帳を分団長(故人)に渡した。まさか、分団で口座を管理するとは思ってもいなかった。分団が開く月1回の飲み会は、ほぼ強制参加。会場は分団の機庫の2階で、チラシ寿司やすき焼き、缶ビールなどが出た。飲食代は無料で、分団長に尋ねたところ、

「みんなの報酬や手当で賄っている。お金はみんなのものだ」

 と堂々と言われた。疑問を感じて口座の明細を見せてもらうよう求めたが、分団で管理しているとして拒まれたという。なぜ、自分の口座にもかかわらず入出金記録を見せてもらえないのか理解しがたく、不信感が募り始めた。

典型的な年功序列の組織

 男性は、2007年頃、消防団に入って活動している知人にしつこく誘われたのが入団のきっかけだった。

「話だけ聞いてみようかと思ったのが始まりでした。地域の人や分団長に話を聞いてみると『登録するだけで結構です』という説明だったので、それだったらという軽い気持ちで参加することにしました」

 しかし、入団すると飲み会はほぼ強制参加で聞いていた話と異なり、戸惑うばかりだった。飲み会のほとんどは出動後や、新人の入団時の歓迎会を機に開かれた。団員歴が長い人の発言が重視され、典型的な年功序列の組織だった。新人は歓迎会でもてはやされるが、次回以降の飲み会からは買い出しや調理、片付けなどの雑用をメインで担当しなければならない。機庫で開くため、段取りについて細かい注文を受けた。分団長などのベテラン団員は始まりから終わりまで手伝うそぶりは一切なく、ずっと座りっぱなし。不満は溜まる一方だった。