1965年作品(90分)
東映
2800円(税抜)
レンタルあり

 東映は一九六〇年代半ば、観客の入らなくなった時代劇映画の製作から撤退し、着流しのやくざたちが活躍する任侠映画路線を新たに敷く。

 この時期にトップスターの座にいたのが、鶴田浩二と高倉健だ。高倉健が堂々たる体躯に鋭い三白眼、朴訥とした口調という生来のフィジカルを活かしてやくざの凄味を表現したのに対し、鶴田は徹頭徹尾、細部まで作り込んだ芝居でやくざの哀愁を演じた。

 それだけ演技力に自信もあったのだろうか。鶴田は決して引いた芝居はしない。「俺を見ろ」「俺だけを見てればいい」と言わんばかりに、どんな場面でも相手を立てることなく自らの存在を前面に押し出した。そのため観る側は鶴田の一挙手一投足をひたすら見守るという、まるでアイドル映画のような接し方をするようになっていくのである。

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 特に今回取り上げる『明治侠客伝 三代目襲名』はまさに、「鶴田を愛でるための作品」とすら思えてきてしまう。

 舞台は明治の大阪。弱きを助け、筋道を通す。そんな昔ながらの任侠精神を守り抜く木屋辰組と、土建利権を牛耳ろうとする建材業者と組んだ傍若無人の新興やくざの対立――任侠映画で御馴染の図式で物語は展開、鶴田は木屋辰組の三代目・浅次郎を演じた。

 危篤の父を見舞いたいが座敷があるため帰郷できない女郎・初栄(藤純子)に気前よく財布を放る鶴田。初栄から恩返しの桃を受け取り、去りゆく背中に優しく微笑みかける鶴田。敵の妨害で資材を失ったため工事に穴を空けてしまい、それを建設会社社長(丹波哲郎)に謝るべく雨に打たれながら待ち続ける鶴田。哀しい過去を語りながら初栄を優しく抱きしめる鶴田。自らの歌う主題歌をバックに単身で敵地へ向かう鶴田――。挙動の一々が画になり、様になる。そんな鶴田の姿が全編を通して映し出されていく。

 中でも印象的な場面が物語中盤にある。浅次郎と初栄は好き合った仲だったが、やくざ渡世の筋目のため離れることになる。そして、浅次郎は体ごとぶつけてすがりついてくる初栄を突き放し、「アホな男や。せやけどワシはそんな生き方しかできへんねん」と諭す。この時の鶴田の芝居が、まさに彼の真骨頂。憂いを帯びた声、目に涙を溜めて鼻をひくつかせる表情。その作り込み方は、役柄の哀しみに陶酔しきったナルシシズムすら、観る側に感じさせるのである。

 しかも、不思議とそれが不快にならない。鶴田の強烈な自意識にこちらも巻き込まれて酔いしれてしまい、思わずウットリとしてくるからだ。

 作品を自分一色に染める。それもスターの在り方の一つだと、鶴田は教えてくれる。