「ダンボールちょうだい! ダンボール!」
「触んなよ! オラァ!」
「なんで俺の肩に手当ててんだよ!」
4月16日朝10時過ぎ、渋谷の複合文化施設「Bunkamura」では客の怒号が飛び交っていた。エントランス前には数百人を超える人だかりができ、内部は人が押し寄せて、歩くスペースもないほどの“超3密”状態。警察も出動するほどの騒ぎとなった。
折しも東京都は4月12日に適用された「まん延防止等重点措置」の最中でのことだった。感染拡大の歯止めがかからず、政府はその後、同月23日に3回目の緊急事態宣言を発令する方針を発表、25日に発出した。そんな状況下で、Bunkamuraでは一体何が起きていたのか——。
お目当てはミイラではなく……
この日はBunkamuraでの「古代エジプト展」の開催初日だった。この展覧会は、オランダ・ライデン国立古代博物館の所蔵品250点が展示され、展示されているミイラのCTスキャン結果が世界初公開されるなど、開催前から話題を呼んでいた。
しかし、この日殺到した人々のお目当てはミイラではない。
「彼らは展示会限定のグッズを買うために集まったんです。ほとんどが“転売ヤー”ですよ」
そう語るのは、自らも転売するための商品を購入する目的で仲間2人とBunkamuraを訪れたA氏だ。
“転売ヤー”とは、希少商品の転売で儲けようとする業者のこと。商品の流通を妨害するケースも多く、コロナ以降は巣ごもり需要で価格が高騰したゲーム機器「Nintendo Switch」や人気ゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」などを転売ヤーが買い占めたことが話題となった。
「この展示会では『ライデン国立古代博物館所蔵古代エジプト展開催記念 BE@RBRICK!!』が販売されたんです。『ベアブリック』というテディベアをモチーフにしたフィギュアシリーズの限定品で、ベアブリックは他にもドラえもんや高級グラスブランド・バカラとコラボするなど、色々なシリーズが発売されています。実はこれがいい金になるんですよ」(A氏)
ベアブリックはいま「最も美味しい商品」
ベアブリックは2001年に株式会社メディコム・トイが開発した商品だ。世界中の企業やアーティストとコラボレーションし、バリエーションは数千種類にのぼる。
「著名人にもファンが多く、浜崎あゆみさんが2018年4月にインスタグラムへアップした写真には大量のベアブリックが写り込んでいました。有名ブランドCHANELとコラボしたベアブリックはBIGBANGのメンバー・G-DRAGONの楽曲『WHO YOU?』のPVで使われ、オークションでは230万円で落札されていますよ。
ベアブリックはレア度が高ければ元値の数倍の値段が付くんです。利益率がめちゃくちゃ高いので、いま転売ヤーの間では『最も美味しい商品』のひとつになっています」(同前)