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伝統芸能に「改革」を

 講談は伝統芸能ゆえ、古い仕来りがあり、それが現在とそぐわないものもある。銀冶は、そういうものを自分ができることから変えていきたいという。実際、今回の神田明神での奉納講談は、これまでの真打昇進披露にはないスタイルだった。

「今まで真打のお披露目は、ホテルの披露宴会場で盛大なパーティーをやる形に決まっていたんです。でも、今回、コロナ禍の影響もあり、盛大にはできない。もともとお披露目は、自分でお金を出すので、だったら自由に自分のプランでやりたいと思いました。決まったものしかできないってつまらないですからね。今回、私はご縁に導かれて神田明神でやらせていただきましたけど、私の下の世代もホテルという形にとらわれず、自分の好きなやり方、縁のある場所でやるのがいいと思います」

 落語は数年前に再ブレイクした。講談も伯山を始め、銀冶らの若い世代が伝統の良きところを残しつつ、「改革」を推し進め、講談する場をジャンルを越えて広げていければより多くの人に届くはずだ。

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温かい祝福に包まれた、真打初日

「いずれ大看板になりますように」

 師匠の鶴瑛は、祝詞でそう述べた。

「私も日本一の講談師になりたいです」 

 銀冶もその覚悟がある。「でも」と続けて、こう言った。

「銀冶という名前は、一鶴師匠にいただいたんですが、『金だと負荷がかかり過ぎ。銅だともの足りない。銀は頃合いがすごくいい。それが長く講談をつづけていくコツだよ』と言われたんです。私は根詰めてやるタイプではなく、自分が楽しんで、お客さんも楽しませるのが好き。そのスタイルで日本一を目指します」

 

 奉納講談が終わると、深々と頭を下げた。

 席からは「おめでとうございます」「ありがとうございました」という声が飛んだ。真打の初日は、手づくりのお披露目らしく温かい祝福のムードに包まれていた。

 鶴瑛は、うんうんと小さく頷きながら楽屋に戻っていった。

写真=ヤナガワゴーッ!