治療だけでは再犯を防止することはできない
(今回の事件が起こった)原因は法的不備にあります。治安当局が再犯防止の措置を行えないのです。「医療少年院の更生プログラム」がいけないわけではない。通常の少年院や刑務所の方がよかったというわけでもない。むしろ、少年院や医療少年院は機能しています。
実際に刑罰を与えることを目的とする刑務所に比べ、少年院や医療少年院を出た人の再犯率が低いというデータがあります。また、そもそも少年犯罪自体が減少傾向にあり、平成元年に26万人ほどだった刑法犯検挙少年は、平成30年には約2万3000人にまで減少しています。データから見ても、少年を取り巻く環境が良くなっているというのは事実。それは少年院や医療少年院がしっかりと機能しているからと考えて良いでしょう。
ただ、医療少年院のプログラムを完全にこなした結果、少年たちが再び犯罪に手を染める可能性を「低くする」ことはできても、「ゼロ」にはできません。プログラムには限界があります。更正プログラムを施したとしても、再び犯罪に手を染めてしまう少年が一定数出ます。そもそも今の精神医学では独特の性癖を持っている少年のような特殊なケースに対しては、性的傾向を修正する治療技術自体がありません。治療に限界がある以上、治療しきれなかった少年のなかから再犯者が出ます。治療だけでは再犯は防止できません。そこから先は治安当局の仕事です。
出所したとたん「監視の目」が少なくなり、再犯のチャンスが何度も訪れる
ですから、「再犯の可能性をゼロにすることはできない」という観点から問題を考えてみる必要があります。彼らが医療少年院を出た後に再犯を犯しにくいような制度を整備しなければなりません。彼らに対しては再び犯罪に手を染めないように見守る。地域住民に対しては治安情報を適切に提供する。しかし、日本では、このような「再犯防止」のための法制度が全くない。
そもそも医療少年院で行われているプログラムと言うのは、犯罪予防のためでなく、心の病気の治療や社会復帰を促すためのものです。医療少年院の中では、少年たちは四六時中監視され、問題行動を起こさないよう管理されていますが、出所したあとは、とたんに「監視の目」が少なくなり、再犯のチャンスが何度も訪れるようになります。危険人物が、自由奔放に街を歩ける状態となってしまうのです。