政商と呼ばれるゆえん
政界人脈を駆使して利権にありつく。簡単にいえば、水谷功が政商と呼ばれるのは、その長年の渡らい種(わたらいぐさ)ゆえに違いない。政界における交友は、同じ桑名出身の元自治大臣、山本幸雄の秘書たちとの付き合いが原点である。
水谷建設が山本事務所に出入りするようになったのは、功の兄、勤の社長時代にさかのぼる。水谷功はそこで山本の秘書だった森岡と知り合っている。元内務官僚の山本は、中曽根康弘に近かった。中曽根内閣時代には、自治大臣に就任した。自民党内で人望があり、秘書たちも辣腕ぞろいだったという。森岡一智も、その山本事務所の一員だった。
森岡はそこから水谷の裏仕事を担うようになる。亀井静香や古賀誠の秘書たちが駆け付けた絶頂期の還暦祝いにも参加している。06年に摘発された脱税事件当時、水谷の側近の1人として、東京地検の取調べを受けた。そのとき三重県知事だった北川との関係もとうぜん俎上にのぼっている。
〈水谷建設所得隠し 裏金化、政界流出か 元三重県知事秘書と接点〉
06年7月11日付の産経新聞大阪朝刊には、そう題された大きな記事が一面を飾った。次のように書いている。
〈「水谷建設」(三重県桑名市)の脱税事件で、東京地検特捜部は10日、関連先として新たに北川正恭・元三重県知事の元秘書が親密な関係を持つ土木工事会社(同県四日市市)を家宅捜索した。水谷建設は政界とのつながりが深いとされており、新たな「接点」が浮上した〉
ここに出てくる元秘書が森岡である。四日市の土木工事会社も、水谷功の傘下にあるグループの1社だ。森岡は水谷建設グループが請け負った中部国際空港の工事に奔走し、その関係が浮上したのである。
報道にはないが、北川の元秘書との関係が浮上する端緒は、東京地検が家宅捜索で押収した2通の借用書だった。森岡が水谷から3000万円を二度借りた、とする借用書だ。だがその実、借金はしていない。実際は、森岡が6000万円を借金したものと偽装して、裏金を捻出した。そのための経理上のアリバイ工作だった。
北川事務所を去った森岡は、いつしか水谷功と行動をともにするようになる。水谷にとって政官業のもたれ合い構造を熟知している森岡は、重宝な存在だったに違いない。前述した偽の借用書を使った裏金工作などは氷山の一角でしかない。が、そこを特捜部に突っ込まれ、水谷功本人のみならず、その周囲が窮地に立たされていく。
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