「そば」や「うどん」はいろいろな形に加工できる面白さがある。細麺、太麺、平打ち麺。また、麺としてだけでなく板状に切ったものもある。

 青森南部や岩手県北部では、正方形の形をした「はっと」や三角形の「かっけ」などは今でも食べられている。「うどん」は麺帯がしなやかなせいか、「そば」よりも豊かな形状の食べ方が進化したようである。

群馬県桐生辺りの幅広平打ち麺「ひもかわ」

 そして、その中でも人気なのが、愛知の「きしめん」や群馬県桐生辺りの「ひもかわ」などの平打ち麺である。乾麺のJAS規格では、幅4.5mm以上かつ厚さ2.0mm未満の帯状のものを指す。生麺では見た目が薄くて平たければそう呼んでいいそうで、「ひもかわ」の中には、幅10cm以上の平打ち麺もあるという。「ひもかわ」は「きしめん」よりも、かなり幅広いというイメージが定着している。

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 平打ちの幅広麺は、「きしめん」、「ひもかわ」以外にも、岡山県の「しのうどん」、鴻巣あたりの「川幅うどん」などが知られている。いずれも小麦の産地やかつて産地であった地域のご当地名物である。

 ところで、「ひもかわ」という言葉は、広く知られている言葉だろうか。その語源には諸説ある。江戸時代、三河国にあった宿「芋川」にうまい平打ちのうどんを出す店があって人気となった。その噂が小麦産地の群馬県桐生まで届いて、その後、訛って「いもかわ」が「ひもかわ」になったというのが有力な説のようだ(「きしめん」の由来も諸説ある)。

 個人的な意見であるが、真田紐のような平紐の形をして、利根川のように川幅が広いうどんを「紐川(ひもかわ)」と呼ぶようになったのではと推測している。しかし、そうした言い伝えはどこにもないというから不思議である。いずれにせよ、お祝い事の時などに食べられていたそうで、縁起の良い食べ物であったようだ。

都営地下鉄大門駅近くのファスト系新店「ひもかわ桐生」

 さて、前置きが長くなってしまったが、東京都内でも幅広うどんの「ひもかわ」を食べることができる店がわずかに存在している。銀座3丁目の「五代目花山うどん銀座店」は高級店として有名である。そして、今年4月、都営地下鉄大門駅近くに「ひもかわ桐生」というファスト系の新店ができた。5月中旬の土曜日に、さっそく訪問してみることにした。

大門駅のA6階段を出たところには更科布屋がある

 大門駅のA6階段を出て、芝神明商店街を入ったすぐの右手に「ひもかわ桐生」はある。なかなか良い立地である。到着したのは午前11時過ぎであったのだが、すでに数名が券売機の前でメニューを吟味しているところだった。人気店になっているようだ。そして、なぜか券売機の前にはサイの赤ちゃんが鎮座している。

芝神明商店街を入ったすぐの右手に「ひもかわ桐生」がみえる
駅近できれいな外観の「ひもかわ桐生」
店前にはなぜかサイの赤ちゃん
店長の斎藤さんはフレンドリーな方でした

 店長の斎藤実鶴さんに聞いてみると、「桐生のひもかわを中心に、群馬や埼玉あたりの田舎うどんやサイドメニューを合わせて楽しんでいただけるような店をコンセプトとしてオープンした」そうである。