文春オンライン

「失敗すると思う。将来」「苦手。頭を使うのが」“どうしても頑張れない”人にかけてはいけない“意外な一言”

『どうしても頑張れない人たち ケーキの切れない非行少年たち2』より #2

2021/05/25

genre : ライフ, 社会, 教育

note

こんな自分でも分かってほしい

 本人自身は、頑張らないといけないのは分かっているのです。でもできない、頑張れない、こんな自分のことを理解してほしい、といった葛藤を抱えています。そして、長い時間をかけながら、そういった自分を受け入れていくのです。

 でも、本当にそれしか方法がないのでしょうか。ずっとできないまま、頑張れないまま、耐えていくしかないのでしょうか。

 人はどこかに必ず強みをもっているはずです。ただこれには個人差もありますし、置かれた環境や周囲にいる人たちにも大きく影響を受けると思いますので、一概には言えないでしょう。一方で、頑張れないと思われている人たちでも、全てに頑張れないわけではありません。ある場所や状況では、周りが驚くほど頑張れることがあるのも事実です。本人の特性に沿った支援をし続ければ、その強みを引きだすことも十分可能だと私は思います。では、そういった強みを引き出すきっかけは何なのか。本人の強みは何なのか。ここでは本人目線で頑張れるためのヒントを探っていきたいと思います。

ADVERTISEMENT

引きこもりでもコンサートには行ける

 私は精神科病院で勤務していた頃、思春期外来も担当していました。患者の多くは10代後半の女性たちでした。学校にうまくなじめず不登校や引きこもりになっていたり、うつ病になったりしている子たちです。勉強もしない、運動もしない、もちろん外出もしない、ひたすらSNSで繋がっているだけ、といった子たちがほとんどでした。

 中にはリストカットなどの自傷の跡がある子や、処方した薬を大量服薬して救急外来に運ばれる子もいました。彼女たちはとにかく人が怖く、一人で電車に乗るのですら、かなりの冒険のようでした。なかなか出口が見えないまま、20歳を超え成人外来に移っていく子が多くいました。にもかかわらず、彼女たちの中には好きなアーティストのコンサートなら、どんなに遠くても行ける子が一定の割合でいました。

 人が怖くてずっと引きこもっている子が、好きなアーティストのコンサートのためなら、大阪から東京まで新幹線に乗って一人で出かけるのです。彼女は、SNSで知り合っただけの一度も会ったことのない知人宅に泊まらせてもらっていました。しかも翌日の早朝には東京を出発して、診察の予約時間にギリギリ間に合うように帰ってこられるのです。それだけのエネルギーとモチベーションはいったいどこからきているのか、いつも不思議でした。