「頑張る人を応援します」。世間ではそんなメッセージがよく流されるが、実は「どうしても頑張れない人たち」が一定数存在する。そして、そうした人たちについて語られることは意外と少ない。

 そう語るのは、大ベストセラー『ケーキの切れない非行非行少年たち』(新潮新書)の著者である宮口幸治氏だ。ここでは、同氏の新著『どうしても頑張れない人たち ケーキの切れない非行少年たち2』(新潮新書)の一部を抜粋。“どうしても頑張れない人たち”の特徴・傾向について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む

◆◆◆

ADVERTISEMENT

見通しの弱さの問題

 頑張るには、“こうなるためには、これをやったらこうなるから、だからそこまで頑張ってみよう”といった、見通しをもつことが大切です。この見通しの力は“探索の深さ”とも呼ばれ、何ステップ先まで考えられるかに関係してきます。

 しかし、認知機能が弱い人は、先のことを想像するのが苦手で、せいぜい“これをやったらこうなる”といった1~2ステップ先くらいしか見通せません。心理学者のハーマン・スピッツらの研究では、知的障害児では探索の深さは1ステップであることが指摘されています。

©iStock.com

 例えば、漢字を覚える宿題があるとします。見通しの力とは次のようなものです。

 漢字を覚える→ほめられる(1ステップ)→やる気が出る(2ステップ)→テストでいい点が取れる(3ステップ)→いい学校に行ける(4ステップ)→いい仕事につける(5ステップ)

 これだけの見通しがもてれば、いま漢字を覚える必要性が理解でき、漢字を覚えようと頑張る気持ちに繋がります。ただ、まだ子どもであれば長い見通しは難しいので、見通せるのはよくて“いい学校に行ける”という4ステップ目くらいまでではないでしょうか。ですので、いい学校に行きたいという見通しがもて、その気持ちが生じれば頑張るわけです。

 しかし知的障害など認知機能が弱いと1ステップしか先が見通せないこともあります。つまりこの例ですと“ほめられる”までしか見通しがもてていないのです。

 漢字を覚える→ほめられる(1ステップ)

 となると、ほめられるために漢字を覚えるといった動機づけのために頑張ることになります。しかし逆に、ほめられないと動機づけが生まれず頑張れないのです。