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堅実な目標が立てられない

 これらの見通す力は、目標を立てる際に必要となります。

 夏休み明けに実力テストがあるから上位50番以内に入るという目標を立てよう、秋には部活の大切な試合があるからそこで勝つという目標を立てよう、欲しいものがあるから秋までに10万円ためる目標を立てよう、といった感じです。これはあくまで等身大の堅実な目標です。見通しの力が弱くても、目標自体は立てられます。

 かつて少年院の非行少年たちに、「5年後、どうなっていると思う?」といった質問をしていました。まだ10代の少年たちです。答えは、“仕事をきちんとして結婚して幸せな家庭を築いている”といったものが多かったのですが、彼らの中には性犯罪で少年院に入っている少年たちも少なからずいました。彼らの立場を考え合わせると、それらの見通しは現状とかけ離れているのでは、と感じることがしばしばありました。

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 また“芸能界で歌手になっている”と答える少年も意外といました。風貌からはとても想像できない少年も多かったので、自尊心を傷つけないように「歌手は相当厳しいのでは?」と問いかけてみると、少年たちは「ずっとなりたいと思っていたんで」と真摯に答えるのです。将来を見通す力の弱さ、等身大の自分をみる力の弱さを感じずにはいられないことが多くありました。

 等身大の現実的な目標であれば、頑張れば実現することは可能です。それが自信となり、次の目標と頑張りに繋がっていきます。しかし現実離れした目標は、頑張っても実現は困難で、多くが途中で挫折します。そうすると、その度ごとに自信を失い、もう頑張れなくなってしまうのです。ここにも認知機能の中に含まれる先を見通す力の弱さが関係しているのです。

欲求段階の問題

 頑張れない理由としては他に、欲求段階の問題もあります。やってみたい、頑張りたい、という気持ちは自己実現の欲求でもあります。心理学者のアブラハム・マズローが提唱した欲求の5段階説によると、自己実現の欲求は最終段階であり、それは、“生理的欲求”“安全の欲求”“社会的欲求/所属と愛の欲求”“承認の欲求”の4つの欲求の土台の上にあるとされています。この4つの欲求が満たされて、初めて自己実現の欲求が出てくるのです。