「わぁ、何が起きてるんだろー」と思って、で、引っ張られてベッドまで連れて行かされて、なぐりかかられそうなって、でも、必死で抵抗して、蹴ったり蹴飛ばしたりしてて、そしたら相手あきらめて。なんかたぶんDVのケはあったみたいで(中略)。「とりあえず帰して」、っていって、ホテルから出たら、いきなり手握ってきて、「ほんとにごめん、こんな思いさせないから、もう1回ホテルに戻ろう」っていわれて。そんなの信用できないから、「とりあえず、ここでいいから降ろして」って。
客から暴行を受けたあと、なんとか外へ出ることができた春菜は、米軍基地のフェンスに囲まれた深夜の路上で車から降ろされる。そしてたまたま通りがかったタクシーを拾い、ひとりで民宿まで帰っていった。
つらくてもやめられない、ここ以外帰る場所もない
この事件のあと、春菜は客をとることが怖くなってしまった。だが、和樹は仕事をやめろといわない。春菜は薫と相談し、客1名に女性2名がついてセックスをする、「3P」という形態で客をとることにした。もしも客が暴力をふるおうとしても、ふたり一緒ならば抵抗することもできるし、最悪の場合、ひとりはそこから逃げることができる。そうすればいまよりも安全に仕事ができる。
それからは、ふたりで客と会うようになった。ホテルでは客とそれぞれセックスをして、また元の場所まで送ってもらう。薫と一緒だと、盗撮の確認や、ホテルの施錠の確認がはるかにたやすくなった。春菜たちは以前よりも安全に働くことができるようになった。
だが、春菜の感じていた仕事のつらさとは、客から暴力を受ける危険性だけではないように私には思えた。春菜は、発作のように泣いてしまうことが相変わらずあったし、目の前に客がいるのにすっぽかして帰ることがあったと話している。
──どんななのかな。……やっぱり仕事つらかったの?
これがとっても激しかった。つらいときと別に楽なときと。
──これは、客次第とかではなくて?
自分の気持ち次第、とっても。嫌な客にあたってても、嫌な客にあたったとしたら自分のなかでは、早く終わらせて早く帰ればいいんだっていうのがあったから。よかったんだけど。気分が嫌なときはどんだけいいひとにあたってても、もう1分1秒がとっても長く感じる。
──ふーん。もう話もしたくない?
うん、話もしたくないし。なんかもう、ひとりでここからいなくなりたいけど。
──逃げたりはしなかったの?
もう、しなかったけど。待ち合わせのときにほんとうに嫌だったら、もう駐車場の隅っこに隠れて、「いないよ」とか。目の前に(客が)いるけど、和樹に(電話をかけて)「いないよー」とか。「ああ、これ、なんていうの、サクラじゃん?」みたいな。車の下に隠れて、「サクラじゃん」とかいって。