1ページ目から読む
3/5ページ目

 春菜は、仕事をするのがつらいことが何度もあったと話した。でも私は、そのつらさがなんであったのか、それ以上、春菜に尋ねることができなかった。春菜の得たお金は、春菜と和樹が生活するためのお金だから、仕事をやめるという選択肢が春菜にはない。客と会ったあと春菜が泣いていても、和樹はその理由を尋ねない。客に暴行された春菜がひとりで民宿まで帰ってきても、和樹は仕事をやめろとはいわない。そうした和樹の行動をなじり、和樹と別れたとしても、春菜には帰る家がない。春菜はどこにも行けないなかで仕事を続けていた。

 春菜のつらさは、幾重にも重なっているように私には見えた。

自分が100人と売春して得た金を彼はあっという間に使ってしまった

 だが次第に春菜は、和樹が自分のお金をあてにして生活することに、苛立ちを覚えるようになる。春菜が17歳のころ、春菜と和樹は友だちも一緒に、九州に「出稼ぎ」に出かけ、春菜は毎日数人の客をとって、150万円ものお金を貯めて沖縄に帰ってきた。150万円というお金は、1万5000円で客をとっていた春菜が、ざっと100人の客をとった計算になる。出稼ぎ期間中の生活費もすべて、春菜が払っていたわけだから、それより多い数の客をとって、春菜は毎日、仕事をしていたはずだ。

ADVERTISEMENT

 だが和樹はそのお金の一部を自分の母親に貸してしまう。さらに和樹は、残りのお金で免許をとり、自分の車を購入した。150万円あった貯金は、あっという間に20万円程度になってしまう。また、これをさかいに、お金を管理していた和樹の浪費もはじまる。

 このお金150万ぐらい貯めて帰ってきたときに、結局、(沖縄に)帰る前に自分はやりたいこといっぱいあるから、ひとり、いくらいくらって決めて、10万、10万ぐらいねって。自分、美容室行って買い物して、バーって行って帰ってきて。「別に、もう仕事しなくていいや」ってなるから、お金あるから。ああーって遊んでたら、「どこ行きたい?」「暇だねー」「100スロ行く?」別にいくら使おうが、「あっふーん(=気にしない)」みたいな。と、思ってたら、和樹、自練(=自動車教習場)行かして、車買って、ってやってたら、「なんでこんなお金がなくなる?」みたいな。………でも後々、和樹のお金の管理が適当になってきて。もうなんか自分がやりたいって思ったら、「ねえ春菜」、みたいなかんじだったから……。