それでも、誰が吉村に取って代わるのかという問いの答えは明確ではない。彼に残された任期はあと2年で、その間に確実に衆院選はやってくる。自民党を含めた大阪野党はどのような将来像を描いているのか。府政を長く取材してきた在阪ベテラン記者は現実を冷静に見ている。
「大阪では野党の自民党、それに立憲、共産まで相乗りした統一候補を立てたとしても、吉村さんに選挙で勝つというのは、並大抵のことではない」
そう書くと、決まって反論として出てくるのが「関西のテレビは吉村知事をこぞって出演させており、維新を批判していない」というものだ。私も関西で仕事をしており、実際にスタジオで吉村に質問をしたこともある。バイアスがあると言われてしまえば、それまでだが、実証的な政治学からわかるのは大阪の有権者はパフォーマンスやメディアに踊らされているわけではない。冷静で合理的な判断として、吉村、維新を支持している。
「維新」の正統な後継者
私は、これまで取材に応じてこなかった吉村がもっとも信頼をおいた維新の側近や、周辺にいた人々に取材をして彼の足跡を辿った。そこであらためて気がついたことがある。
政治家としての吉村は、圧倒的に選挙に強かったとか最初から人気があったということはない。国政選挙では、小選挙区での落選も経験し、大阪市長時代は周辺から見れば大きな実績があったにもかかわらず、街頭演説には人が集まらなかったという。
吉村の本質は「維新」の正統な後継者、すなわち維新という土台の上に乗った政治家という点にある。
大阪の有権者の政治心理を分析した『維新支持の分析 ポピュリズムか、有権者の合理性か』(有斐閣)の著者である関西学院大教授・善教将大によれば、維新が大阪で与党になった理由を「ポピュリズム政治の帰結」とみなす主張には、実証的な根拠がほとんどないという。
橋下がポピュリスト的な手法を使い、それに習うかのように吉村も同じような方法を使うことはあるが、それだけで支持が獲られるならば、都構想は容易に実現できた。メディア出演も同様だ。だが橋下の支持率は、彼がメディアをひんぱんに賑わせたわりには、さほど高くはなかった。端的に言えば、政治家のメディア露出と支持率はまったく連動しない。
「強い維新支持層」は5~10%程度だが……
善教が示す実証的なデータから見えてくるのは、これだけ長く大阪与党でありながら、維新を強く支持する層は、現在のところ全体のわずか5%~10%。逆に強い不支持層は常時30%前後存在しているという事実だ。この不支持層がネット上でも発言が多いと見ても問題ないだろう。残りの約6割には「ゆるい支持層」と、ほぼ同じ割合の「維新を拒否はしないが支持もしない層」が入り混じっている。この6割の、ゆるい支持、ゆるい不支持は、そのときの状況で入れ替わり、投票行動に反映される。つまり維新支持層は決して強固なものではなく、メディアの影響もまた限定的であったと言える。