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「死ねばいいのに」が止まらない 失禁の始末、汚れた衣類の洗濯、収入の減少…50代独身男性“介護”のリアル

『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』より #1

2021/05/31
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 その時点でできる限りの態勢を組み、「これで大丈夫」と思っても、認知症と老化の両方が進行していくので、いずれは破綻する。また次を組まなくてはいけない。母の場合、2015年の春に組んだ要介護1の介護態勢は2015年秋頃からほころびはじめた。それに対応すべく要介護3の認定を得て2016年3月に組んだ態勢は、同年8月頃から行き詰まり始めた。8月、9月と、母の状態は悪くなっていったのである。アルツハイマー病もさることながら、老化に伴う身体機能の低下が顕著だった。

 8月の初め、朝起きると母は左腕に大きな擦り傷を作っていた。もちろん何が起きたか、母は覚えていない。応接間の土壁を見ると、丁度母の肩の高さから弧状のこすり跡がついている。それで夜中にトイレに起きた時に転倒したと理解した。右脇腹が痛いといい、痛みはなかなか取れなかった。整形外科に連れて行こうとしても、「医者は嫌。絶対嫌」と突っぱねる。

 それでも痛みが続くので、引っ立てるようにして連れて行くと、今度は肋骨を1本、骨折していた。肋骨の骨折は痛みをこらえて、骨がくっつくのを待つしかない。整形外科では、母のアルツハイマー病の進行を実感することになった。1年前に肩脱臼で受診した時と比べると、明らかに医師との会話がちぐはぐになっていた。

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 衰えを感じたことを挙げていけばきりがない。

 足が弱り、歩くのが遅くなった。

 一度座り込むと、なかなか立ち上がろうとしない。

©iStock.com

 夏は暑いので、老犬を連れての散歩は、早朝、または夕方にしていたが、かつてはさっさと歩いていた道を、時々立ち止まっては壁に寄りかかり息を整えないと歩き通せなくなってきた。危険なので、それまで母が持っていた犬の引き綱を、私が持つようになった。毎週1回、金曜日のリハビリのデイサービスには相変わらず通っていたが、半日のトレーニングでは母の体力低下を押しとどめることはできないようだった。

洗濯機にリハビリパンツを入れ大惨事に

 失禁の量が増えて、朝起きると介護ベッドのシーツを汚していることが増えた。吸水量300ccのリハビリパンツを使っていたのだが、それでは足りなくなり、寝る前には600ccのリハビリパンツをはかせることにした。例によって「こんなにもこもこで感触の悪いもの、はきたくない」と主張する。ヘルパーさんたちと協力して、はいてもらうように持って行くのに大変苦労した。

 失禁は家にいるときだけではなく、デイサービスに行っている最中にも起きるようになった。リハビリパンツの吸水量を超えて尿が漏れてしまうのだ。このため、デイサービスに行く時に替えのズボンを持たせることになった。汚したズボンはビニール袋に入って戻ってくる。母が帰ってくると、まず汚れたズボンを洗濯するのが日課となった。

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