クーデター前夜
もう1人、和田は西田勲平に声をかけている。西田は、和田にこう憤って見せたという。
「分かりました。地面師事件はどう考えてもおかしいです。会長、私は解任に賛成します」
これで、和田は阿部解任の票が集まったと安心してしまった。取締役会の前日には、和田は伊久と勝呂、西田に加え、なぜか堀内まで交えて酒席を設けている。そこで「明日は頼むで」と言って、役員たちに挙手の練習までさせている。
「阿部くんの解任動議に賛成の方は、挙手をお願いします」
和田がこう言うと、解任に反対を表明している堀内までもが手を挙げた。打ち合わせや団結式というよりは余興だろう。緊張感がまるでなかったことがうかがえる。おそらく堀内も西田も、阿部にこの様子を報告したことだろう。阿部は、クーデターの成功を確信したに違いない。
辞任を選ぶという和田の致命的なミス
こうして迎えた2018年1月24日。突然、取締役会で突き付けられた会長解職動議に、和田は頭の整理がつかなかった。そこで致命的なミスを犯してしまう。議長の稲垣に迫られるままに、辞任を選んでしまったのだ。和田が採決を促して解任されていれば、阿部と稲垣はこの事実を公表せざるを得なかった。その後に続く、地面師事件の調査報告書の公表も強く求められ、積水ハウスのガバナンス問題を広くアピールすることができたはずだ。しかし、和田が自ら辞任したことで、調査報告書は隠蔽され、社内に不協和音をもたらす原因となってしまう。
この責任を和田に問うと、下を向いてこう話した。
「過失のある阿部が無罪放免となり、何も責めのないワシを解任する。こんなことが起こるとは、夢にも思わんかった。でもあの時、弁護士さんたちに言われましたわ。『なんで解任されんかったんや』と。そこまで頭が回らなかったんや……」
和田は解任された後、篠原にこう言われたという。
「なんや、あんた裸の王様やったんかい」
「先生にそう言われたら、返す言葉もないわ」
和田の慢心は、「ガバナンス改革」というウソを助長し、保身に全力をかたむける新会長を生み出した。和田の責任は、確かに重い。
裏切られた西田に和田は「ありがとうな」と伝えたが、社を出ると直ぐに親しい弁護士に電話をかけた。和田は、静かに会社を去ろうとは考えていなかった。
【前編を読む】《五反田地面師事件》取引相手が詐欺師だと知っていたとしか考えられない…関係者が明かす積水ハウス“不可解な人事”