EDMシーンに彗星のごとく現れ、リリースしたアルバムは天文学的なセールスを記録。カリスマDJとして世界を股にかけて活躍していたアヴィーチーが還らぬ人となったのは2018年のことだった。彼以外にも、音楽スターの早逝は珍しくない。早すぎる死を神話化する「27クラブ」という言葉も存在する。
そうした現状に対してメッセージを発信し続けるのが、伝説的ロックバンドKISSのフロントマンであるジーン・シモンズ氏だ。ここでは同氏の著書で、X JAPANのYOSHIKI氏が帯へ推薦文を寄稿した『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』(星海社新書)の一部を抜粋。ジーン・シモンズ氏の熱い思いを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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苦しみはアートを創造するための必要条件ではない
アーティストの歴史や子供時代や彼らが置かれた環境を知り、行動学や神経学という基本的な科学を学んだことは、昔なら想像できなかったくらいこの目を開かせてくれた。
その証拠に私は以前より、人々、とくに依存症に苦しむ人々に対して親しみを感じるようになった。人間としての親しみだ。どんな誤解であれ、それを正してくれるのはさらなる理解だろう。意見の食い違いをおさめてくれるのはさらなるデータ――さらなる事実だ。私は『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』のインフォメーションとインスピレーションの源となった会話をかわし、こういった人々の人生の物語を知った。そしてそうするうちに、数々の論争がおこなわれてきたひとつのトピックに関して、意見を変えた。
人間とはぐちゃぐちゃでユニークな存在だ。似たような行動パターンをとる人がいたとしても、それぞれユニークな経験をへて、たどりつくべきところにたどりつく。私たちはそうやって形作られる。他人を上から下まで完璧に理解するなんて不可能かもしれないが、もっと学ぼう、もっと知ろうとすることにはいつだって意味がある。相手が誤解されていたり、意見を異にしていたり、自分にはまったく考えられない選択をして生きている人だったりしたら、なおさらだ。
とくに啓発的だと思う考えかたがある。多くの人の信じるところとは違って、苦しみはすばらしいアートを創造するための必要条件などではない、という考えだ。『クリエイティヴィティ・アンド・ザ・パフォーミング・アーティスト:ビハインド・ザ・マスク』(編集部注:未邦訳)という本から引用してみよう。